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タネとチエ

判断が分かれる論点

調べていると「これが正解」という説明にたくさん出会います。しかし、専門家の間でも意見が割れている論点があります。ここでは、割れている理由と、何で答えが変わるのかを整理します。

公開

論点1: 全世界株式1本に集約すべきか

いわゆる「オルカン1本」。全世界株式のインデックスファンドだけを積み立てる構成です。これを支持する理屈と、留保をつける理屈の両方があります。

1本に集約する理屈

  • 時価総額に応じて世界中に分散されるため、国や地域の比率を自分で決めなくてよい。
  • 国ごとの比率は市場が自動で調整する。どの国が伸びるかを当てにいく必要がない。
  • リバランスがファンド内で行われるので、自分でやることが何もない。
  • 意思決定の回数が減る。判断が減るほど、途中でやめる確率も下がる。
  • 「何を買うか」で悩んで始められない状態を避けられる。始めることの価値は大きい。

留保をつける理屈

  • 株式100%なので下落幅が大きい。実際に半分近くまで下がった局面が過去にある。
  • 時価総額比では米国が過半を占める。「全世界」という名前ほど分散していないという見方もできる。
  • 為替の影響がそのまま乗る。円高が進むと、現地通貨では横ばいでも円建てでは下がる。
  • 取り崩し期に入ると、株式100%はリターンの順序の影響を受けやすい。
  • 日本で働き日本で暮らすなら、日本の資産を持たない構成が本当に合っているかは検討の余地がある。

この論点で実際に効くのは、商品の優劣ではなく「使うのが何年後か」と「下落したときに続けられるか」です。20年以上使わず、下落しても売らないと言い切れるなら、集約する構成の弱点はほとんど顕在化しません。そうでないなら、債券や現金を混ぜる意味が出てきます。

「S&P500 と全世界、どちらか」も同じ構図

米国に集中するか世界に分散するかも、よく議論になります。過去の実績では米国が上回りましたが、それは将来も続くという意味ではありません。「過去に良かったものを選ぶ」と「事前に分散しておく」のどちらの態度を取るか、という選択です。

論点2: NISAの枠に何を入れるか

新しいNISAには、つみたて投資枠(年120万円)と成長投資枠(年240万円)があり、あわせて生涯1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)の非課税保有限度額があります。

ここでよく問われるのが「非課税の枠には、値上がりが大きいものを入れるべきか」です。

非課税の効果は「運用益に対する20.315%が免除される」ことなので、益が大きいほど効果も大きくなります。この意味では、期待リターンの高い資産を非課税枠に置くほうが有利です。

ただし、これを突き詰めると「非課税枠には最もリスクの高いものを入れるべき」という結論になり、下落したときに非課税枠を毀損することになります。しかもNISAでは損失の損益通算ができません。

非課税枠に株式を集める理屈

  • 非課税の恩恵は運用益に比例するため、期待リターンが高い資産ほど効果が大きい。
  • 債券は期待リターンが低いので、非課税枠を使う効果も小さい。
  • 枠が限られているので、効果の大きいものに使うのが合理的。

枠の中でも分散しておく理屈

  • NISA内の損失は損益通算も繰越控除もできない。下落したときの痛手が課税口座より大きい。
  • 課税口座に債券を置くと、利子や分配のたびに課税されて非効率になることもある。
  • 口座ごとに資産を分けると、全体の配分の管理が複雑になる。
  • 生涯枠1,800万円を使い切る人ばかりではない。多くの人にとっては、そもそも全額がNISAに収まる。

実務的には、資産全体で配分を決めたうえで、そのうち期待リターンの高い部分を優先して非課税枠に置く、という整理が扱いやすくなります。「口座ごとに別の方針を持つ」のではなく「全体で1つの配分を持ち、置き場所を最適化する」という順序です。

つみたて投資枠と成長投資枠、どちらを先に埋めるか

両方を同じ年に使うことができます。どちらかを選ぶ必要はありません。
つみたて投資枠成長投資枠
年間投資枠120万円240万円
生涯枠での上限1,800万円まで使える1,200万円まで
買える商品金融庁の基準を満たす投資信託等上場株式・投資信託等(一部除外あり)
買い方積立のみ一括でも積立でも可

成長投資枠には1,200万円という上限がある一方、つみたて投資枠だけで1,800万円を使うこともできます。つまり、成長投資枠を使わないという選択も成立します。

年間の投資額が120万円以内に収まるなら、つみたて投資枠だけで足ります。それを超える額を投じたい場合に、成長投資枠を併用することになります。同じ商品を両方の枠で買うこともできます。

枠を急いで埋めるべきか

「早く埋めたほうが非課税期間が長くなる」という主張と、「一度に入れて直後に下落すると精神的に厳しい」という主張があります。年間投資枠は毎年復活するので、急いで埋めなくても枠が消えるわけではありません(生涯枠は残ります)。

論点3: 分配金でキャッシュフローを作るべきか

「配当や分配金で毎月の収入を作る」という考え方があります。高配当株や分配型のファンドを使う方法です。これも意見が分かれます。

分配金で受け取る理屈

  • 売却の判断をしなくてよい。取り崩す量を毎回決める必要がない。
  • 相場が下がっているときに売らずに済む(元本を減らさずに収入が入る)。
  • 定期的に入金があると、続けるモチベーションになる。心理的な効果は小さくない。
  • 取り崩し期に入ってからは、仕組みが単純なほうが管理しやすい。判断能力の低下にも備えやすい。

トータルリターンで考える理屈

  • 分配金が出ると、そのぶん基準価額は下がる。分配は「増えた分」ではなく「一部を現金化したもの」。
  • 課税口座では、分配のたびに課税される。再投資して繰り延べたほうが複利が効く。
  • 必要なときに必要な額だけ売却すれば、同じことが自分でできる(自作の分配金)。
  • 高配当を狙うと、業種や銘柄が偏る。分散が犠牲になることがある。
  • 積立期に分配を受け取るのは、税を前払いしているのに近い。

「分配金=もうけ」ではありません

ここが最も誤解されるところです。投資信託の分配金には、運用で得た収益から出る部分と、元本を取り崩して出す部分(特別分配金・元本払戻金)があります。後者は自分のお金が戻ってきているだけで、増えていません。毎月分配型で高い分配率をうたうものには、これが含まれていることがあります。

この論点で答えを分けるのは、ライフステージです。積立期は再投資型のほうが税の繰り延べが効きます。取り崩し期に入ると、判断を減らせることの価値が上がるため、分配で受け取る合理性が出てきます。「どちらが正しいか」ではなく「いまどちらの局面にいるか」の問題です。

論点4: 一括投資か、分割して投資するか

まとまった資金がある場合、一度に投じるか、何回かに分けるか。これも定番の論点です。

一括で投じる理屈

  • 市場は長期的に上昇してきたので、早く投じるほど期待値では有利になる。
  • 現金で待っている期間は、その分だけ運用されていない。
  • 分割しても、下落を避けられる保証はない。

分割して投じる理屈

  • 投じた直後に大きく下落したときの精神的な負担が小さい。
  • 「最悪のタイミングで全額入れてしまった」という後悔を避けられる。
  • 途中でやめてしまうリスクが下がるなら、期待値の差より価値がある場合がある。

期待値では一括が有利になりやすい、というのは複数の研究で示されています。それでも分割が支持されるのは、期待値の最大化ではなく「後悔の最小化」を目的にしているためです。目的がちがうので、どちらも間違ってはいません。

この種の論点に共通すること

ここに挙げた論点は、どれも「数字の上での最適解」と「実際に続けられるか」がずれているために割れています。

数字だけで最適化すると、多くの場合は「全世界株式に一括で、非課税枠に集めて、分配は受け取らない」という答えになります。しかしこれは、途中でやめないことを前提にした答えです。

自分がどちらの答えを採るかを決めるとき、判断材料になるのは商品の性能ではなく、自分の時間軸と、下落したときに実際にどう行動しそうかです。そこは他人には決められません。

決められないまま、変えつづけた話

出典

  1. [1]金融庁NISAを知る/新しいNISA