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タネとチエ

まとまったお金は、一括で入れるか、分けて入れるか

ボーナス、退職金、相続、保険の満期金。まとまった資金が手元にできたときに、必ず出てくる問いです。「理屈では一括」と書かれた記事と、「怖いから分けたほうがいい」と書かれた記事の両方に出会って、決められないまま止まっている人は少なくありません。ここでは、この論点が割れている理由を、2つの別の問いに分けて整理します。

解説

最終更新

この論点には、性質のちがう2つの問いが混ざっている

「一括か、分割か」という言い方でひとまとめにされますが、実際には別の問いが2つ入っています。1つは「どちらのほうが、平均的に多く残りやすいか」。もう1つは「どちらのほうが、途中でやめずに続けられるか」です。

前者は、市場の動き方についての問いです。後者は、自分の行動についての問いです。答えを出すのに使う材料がちがうので、混ぜたまま考えると結論が出ません。逆に、分けてしまえば「どちらの問いを重く見るか」という選択になります。

「ドルコスト平均法」という言葉について

分割して投じる方法は、この名前で呼ばれることがあります。ただ、名前が付いていることと、有利であることは別です。この記事では、名前ではなく「何を目的にした方法か」で見ていきます。

平均的に多く残りやすいのは、どちらか

この問いについては、過去のデータを使った検証がいくつも行われていて、一括で投じたほうが結果が良くなった割合のほうが高い、という整理が一般的です。理由はそれほど複雑ではありません。

  • 株式市場は、上がる日と下がる日を比べると、長い期間で見れば上がった期間のほうが長かった。したがって、市場の外で現金のまま待っている時間は、平均的には機会を逃す時間になりやすい。
  • 分割している間、まだ投じていない部分は運用されていない。分割の期間が長いほど、その部分が大きくなる。
  • 分割しても、下落を避けられる保証はない。分けて入れている途中で下がることもある。

この結論には前提が付いています

「過去の期間で、そうなった割合が高かった」という話であって、これから投じる自分の資金がそうなるという意味ではありません。上がる期間のほうが長かったという前提が、次の数年についても成り立つ保証はどこにもありません。期待値の議論は、平均の話であって、自分の一回の話ではない、というところが要点です。

続けられるのは、どちらか

もう一方の問いに移ります。まとまった資金を一度に投じた直後に大きく下落したとき、人はどう行動するか、という問いです。

ここで効いてくるのは、下落の幅そのものよりも「自分がその日を選んだ」という感覚だと言われます。積立で少しずつ入れていて下がったときは、相場が下がったと受け止められます。一括で入れた翌月に下がったときは、自分の判断が間違っていたと受け止めやすくなります。同じ下落幅でも、後者のほうが売却の引き金になりやすい、という指摘があります。

分割して投じる方法が支持されるのは、平均的な結果を良くするためではありません。「最悪のタイミングで全額を入れてしまった」という状態を作らないことで、途中でやめる確率を下げるためです。目的が別のところにあるので、期待値の比較で負けていること自体は、この方法の欠点になりません。

両側の理屈

一括で投じる理屈

  • 市場に置いている時間が長いほうが、平均的には有利になりやすいという整理がある。
  • 現金で待っている間、その部分は運用されていない。物価が上がる局面では、待つこと自体にも目減りがある。
  • 分割しても下落を避けられるわけではない。避けられるのは「一度に入れた」という感覚のほうである。
  • 判断の回数が1回で済む。いつ次を入れるかを毎回考えなくてよい。

分けて投じる理屈

  • 投じた直後に大きく下がったときの負担が小さい。売ってしまう確率が下がるなら、期待値の差より価値がある場合がある。
  • 入れながら値動きに慣れることができる。自分がどれくらいの下落まで平気かを、小さい金額で先に確かめられる。
  • まとまった資金の一部を、当面使う予定のあるお金と分けきれていない場合、時間をかけることで整理が進む。
  • 「あのとき全部入れなければ」と考え続ける状態を避けられる。判断を後から責め続けると、次の判断も鈍る。

どちらの列も、それ自体としては筋が通っています。片方が誤りだから議論が続いているのではなく、見ている目的がちがうから続いています。

毎月の積立をしている人には、そもそも関係のない論点

注意しておきたいのは、この論点が出てくる場面は限られている、ということです。毎月の収入から積み立てている場合、そもそも一括で投じるという選択肢がありません。入ってきた分を入れているだけなので、分割かどうかを選んでいるわけではないのです。

この問いが実際に発生するのは、退職金、相続、保険の満期金、事業の売却代金のように、ふだんの収入とは別のまとまった資金が一度に入ってきたときです。金額が大きく、しかも一度きりであることが多いので、判断の重さも変わります。

順番として先に来るもの

まとまった資金が入ったとき、投じ方を決める前に片づく話がいくつかあります。生活防衛資金が用意できているか、数年以内に使う予定が決まっているお金が混ざっていないか、金利の高い借入が残っていないか。ここが済んでいないうちに投じ方の議論をすると、投じるべきでない資金の入れ方を検討することになります。

何で答えが変わるか

ここまでを踏まえると、決め手になるのは商品でも相場の見通しでもなく、次のようなところになります。

どれか1つで決まるものではなく、複数が同じ方向を向いているかを見る形になります。
見るところ一括に寄る場合分割に寄る場合
そのお金を使う時期当面使う予定がなく、置いておける期間が長い使う時期が近い、または決まっていない
下落したときの自分の行動下がっても売らずにいられると、根拠を持って言える過去に下落で売った経験がある、または分からない
その資金の性格ふだんの家計と切り離せている生活費や近い支出と、まだ混ざっている
投資そのものの経験値動きのある資産を持った経験がある初めて、または久しぶりに再開する

「分からない」が多い場合に分割へ寄せるのは、期待値の観点では不利を受け入れる選択です。それでも成立するのは、続けられなかったときの損失のほうが、期待値の差より大きくなりうるためです。逆に、下落しても動かないと言い切れる人にとっては、分割する理由が薄くなります。

分けて入れると決めたときに、先に決めておくこと

分割を選ぶ場合、いちばん起きやすいのは「分けて入れる予定だったのに、下がったので止めた」という状態です。これは分割ではなく、相場を見て判断する方法に変わっています。目的が「途中でやめないこと」だったはずなので、この時点で目的から外れます。

  1. 何回に分けて、どの間隔で入れるかを、始める前に決めて書いておく。
  2. 途中で下がったときにどうするかも、同時に決めておく(予定どおり入れる、と書いておくだけでも効きます)。
  3. 入れ終わる時期を決めておく。決めないと、いつまでも現金のまま残りやすくなります。
  4. 自動でできる部分は自動にして、毎回の判断を減らす。

一括を選ぶ場合に決めておくことも、実は同じ形です。投じたあとに下落したとき何をするか(あるいは何もしないか)を、投じる前に書いておく。決めた内容よりも、決めた時点が下落の前だったかどうかのほうが効きます。

「入れ終わるまで」を決めていなかった話