15. 保険と、そなえのしくみ
45分で1コマ。指導案・ワークシート・話し合いの問い・指導上の配慮をまとめています。
小学校 高学年45分
児童に配るページは別にあります。このページには発問の答えや指導上の配慮が含まれるので、児童にはこども向けの本文(こまった人を、みんなで たすける)のほうを配ってください。読み終えたあとの「ふりかえってみよう」も、そちらのページにあります。
金融を専門に学んでこられていない場合は、先に先生のための予習をご覧ください。
授業の前に押さえておくこと
- 保険は「人数が集まると見当がつく」ことで成り立ちます
- 一人ひとりについて、いつけがをするか・いつ火事になるかは分かりません。ところが人数が増えると、その集団の中で1年に何件くらい起きるかは、過去の記録からおおよその見当がつきます。だから少額ずつ集めておけば、起きた人にまとめて渡せます。「分からないこと」が「見当がつくこと」に変わるのは、人数が集まったときだけです。ここが、一人で貯めておくのとの決定的なちがいです。
- 公的な医療保険は、入る・入らないを選ぶものではありません
- 日本に住んでいる人は、いずれかの公的医療保険に加入することになっています(国民皆保険)。窓口で払う割合は30%、義務教育就学前は20%です。さらに、1か月の自己負担が一定額を超えた分は高額療養費として戻る仕組みがあります。限度額は2026年8月から見直されたものが適用されていて、所得区分を細分化する次の段階は2027年8月からです(2026年7月31日時点では、まだ施行されていません)。授業で数値まで出す必要はありませんが、保護者から聞かれたときのために押さえておいてください。
- 「使わなかったぶん」を、どちらの側からも説明できるように
- 保険料は、その期間に起きたかもしれないことへの備えと交換されています。受け取らなかった人は、その期間ずっと「起きても何とかなる状態」を持っていました。同時に、その分がその人の手もとから出ていって、自分では使えなくなったことも事実です。どちらも本当のことなので、片方だけを説明しないでください。「戻ってこないお金」とだけ説明すると「入るだけむだ」という理解が残り、「損ではない」とだけ説明すると教師が結論を配ったことになります。本文の4番目の節は、両方を同じ重さで並べて問いのまま止めてあります。なお、貯蓄と保険を同じ物差しで比べる議論(かけ捨てか積立か)は大人向けの論点で、この時間では扱いません。本サイトも商品の優劣は扱いません。
- 税とのちがいは、集め方ではなく給付との結びつき
- 税は特定の対価と結びつかずに集められ、みんなが使うものに充てられます。社会保険は、保険料を納めていることと給付が結びついています。児童には「集め方は似ていて、行き先の決まり方がちがう」と言い換えると通じます。なお公的な保険には税も投入されているので、実際には両方が混ざっています。厳密に分けようとせず、代表的なちがいを示すところで止めてください。
- 話し合いの問い①は、現実の論点そのものです
- 「けがをしやすい人ほどたくさん出す」は、負担をリスクに応じて細かく分けるという考え方です。分ければ公平に見えますが、いちばん備えが必要な人ほど払えなくなります。公的な医療保険が、リスクではなく所得などに応じて集めているのはこのためです。用語(逆選択・モラルハザード)は出さなくてかまいません。児童から両側の理屈が出たところで止め、どちらが正しいかは決めないでください。
児童から出やすい質問と、答え方
- Q. 使わなかったお金は、どこへ行くの?
- その年にこまった人へ渡った分と、仕組みを動かすための費用に使われ、残りは次の年の備えに回る、と答えてください。「だれかのポケットに消えた」わけではない、というところが伝われば十分です。
- Q. 保険に入っていない人はどうなるの?
- 病気やけがのための公的な保険には、日本に住んでいる人が入ることになっている、と答えてください。そのうえで「自分で選んで入る保険もあって、入っている家も入っていない家もある」と添えます。どの家がどうかという話には進めないでください。
- Q. うちは病院でお金いらないよ?
- 住んでいる市や町が、その分を出しているところがあります、と答えてください。子どもの医療費の助成は市区町村ごとに内容がちがい、窓口で払わなくてよい地域もあります。どこが無料でどこが有料かという比較には進めず、「住んでいるところによってちがう」で止めてください。転入してきた児童の前で、前に住んでいた土地との比べ合いにしないでください。
- Q. 地震や台風で家がこわれたら?
- 公的な支援の仕組みと、自分で選んで入る保険の両方がある、と答えてください。金額や商品には立ち入らず、「こまったときに何が使えるかは、大人に聞けば調べられる」というところに戻します。被災を経験した児童がいる場合は、その子の家の状況をたずねる形にしないでください。
- Q. 保険のお金を集めているところは、もうかっているの?
- 集めたお金は、こまった人への給付と、仕組みを動かす費用に使われます、と答えてください。公的な保険は利益を出すための仕組みではありません。会社が運営する保険については、仕組みの説明にとどめ、良し悪しの評価には入らないでください。
伝え方で気をつけること
- ワークシート⑤を全体発表させないでください。学校の外の欄が空いている児童を追及しないでください。家に相談できる大人がいない児童がいます。校内(保健室・担任・スクールカウンセラー)だけで完結できる、と全体に伝えてください。
- 「かけ捨ては損」とも「入っておけば安心」とも言わないでください。どちらも商品の選び方の話で、小学生に判断させることではありません。この時間は仕組みまでです。
- 家庭がどんな保険に入っているかを聞かないでください。入っていない家庭もあり、聞いた時点で教室に出ます。
- 子どもの医療費の助成は市区町村ごとにちがいます。「小学生は無料」と言い切らないでください。
- 窓口の負担割合や高額療養費の限度額は改定されます。数値を板書するときは、その年の資料で確かめてください。
- 「たすけ合い=やさしさ」に寄せすぎないでください。保険は、だれがこまるか分からないから先に決めておく仕組みで、そのときの善意に頼らないところが要点です。
- 「保険があれば、どんなときも全部もどる」と言わないでください。渡されるのは、あらかじめ決められた範囲の分だけです。
この時間のねらい
- 起きるかどうか分からないことに、前もってみんなで備える仕組みがあることを説明できる。
- 出した人の全員が受け取るわけではないことをふまえて、受け取らなかった人について、自分の考えと理由を言える。
- 税金と保険のちがいを、集め方ではなくお金の行き先で説明できる。
学習指導要領との対応
- 小学校 社会科(第6学年): 我が国の政治の働き、国民生活と社会保障
- 小学校 家庭科(第5学年・第6学年): 物や金銭の大切さと計画的な使い方
- 小学校 道徳(第5学年・第6学年): 親切・思いやり、よりよい学校生活と集団生活の充実
- 小学校 特別活動: 健康・安全に関する指導、けがや事故が起きたときの行動
授業の流れ(45分)
| 段階 | 分 | 内容 |
|---|---|---|
| 導入 | 7 | 黒板に3つの札(「ためてあったお金」「かりる」「たすけてもらう」)を貼っておく。「自転車がこわれた人がいたとする。直すお金は、どこから来るだろう」と、他人の話として問い、3つの札から選ばせて挙手で数える。自由記述にはしない(「お父さんが出す」のように、だれが出すかの話になり、家庭の事情が教室に出るため)。見るのは、だれが出すかではなく、どこから来るか。金額は問わない。 |
| 展開1 | 12 | たすけ合いの箱を実演する。配るのは学級の人数分ではなく30人ぶんで固定する(本文とワークシートが30人・300まいで計算しているため、実際の人数で配ると目の前の箱と答えが食い違う)。カードは10まいを1束にして輪ゴムでとめ、30束を用意しておく。人数が多い学級は代表がまとめて出し、少ない学級は1人が2束出す。時間の目安は、配布3分・投入2分・くじ1分・分配2分・計算4分。こまったことが起きた役はくじで2人を決め(立候補や指名にしない。「けがをしやすい子」の話に読まれるため)、箱の中の束を15束ずつわたす。束のまま渡せば数えずに済む。そのあとワークシート②で、集まったまい数と1人あたりのまい数を計算させ、自分が出した10まいと受け取る150まいを見くらべる。 |
| 展開2 | 12 | ここがこの時間の山。本文の4番目の節は「あなたはどちらですか」という問いで止めてあるので、答えはここで出させる。ワークシート③「カードを出したのに何も起きなかった人は、そんをしたのか」に○×と理由を書かせ、班の中で見せ合う。全体では、○と×の両方の理由を板書して並べ、どちらが正しいかは決めない。板書は左右に同じだけ書く(片側だけ数が多いと、多いほうが正解に見える)。見るのは結論ではなく理由のほうで、「出した分は自分では使えなくなる」「手もとには何ものこらない」の側でも、「こまった人のところへ行った」「次の年にこまるのは自分かもしれない」の側でも、理由として認める。「かけ捨ては損か」という大人の議論には入らない。 |
| 展開3 | 8 | 本文の5番目・6番目の節を扱う。税金と保険を、集め方(どちらもみんなから少しずつ)と行き先(みんなが使うものか、起きた人にまとめてか)で並べて板書する。続けて、日本ではみんなが病気やけがの保険に入っていること、病院の窓口ではかかったお金の全部をはらうわけではないことを確かめる。窓口の割合の数字は、児童には出さなくてよい(教員向けの注記を参照)。 |
| まとめ | 6 | ワークシート⑤(こまったとき、だれに話すか)を書かせ、学校の中の行き先(保健室・担任・スクールカウンセラー)を全体で確かめる。学校の外の欄は、思いつかなければ空けておいてよいと、書く前に全体に伝える。こわい話で終わらせず、「先に知っておくと落ち着ける」に着地させる。最後に、こども向けページ(/kids/insurance-and-helping)の「ふりかえってみよう」3項目を配り、声に出して読み合わせる(できた/できないの採点にはしない)。 |
時間が足りない場合は展開の後半を削り、まとめは削らないでください。「では何ができるか」まで扱わずに終えると、不安だけが残ります。
準備するもの
- ワークシートの印刷(クラス人数分)。指導案ページ(/for-teachers/insurance-and-helping)の「ワークシートだけ印刷する」から出せます
- たすけ合いの箱に使うカード。10まいを1束にして輪ゴムでとめ、30束(300まい)用意します。学級の人数に合わせず、30人ぶんで固定します(本文とワークシートの答えが合わなくなるため)。紙片やおはじきでも代用できます
- 「こまったことが起きた役」を決めるくじ(人数分。当たりは2本)
- 電卓(グループに1台。ワークシート②に使います)
ワークシート:たすけ合いの 箱を 考える
- 起きるか どうか 分からない けれど、起きたら こまる ことを 3つ 書きます。自分の 家の ことでは なく、学校や 町の 中の ことで 書きます。
- 30人の クラスで、1人 10まいずつ カードを 出しました。箱には 何まい 集まりますか。その 年に こまった ことが 起きたのが 2人なら、1人あたり 何まい わたせますか。
- カードを 出したのに、何も 起きなかった 人が います。その 人は そんを したと 思いますか。○か ×を つけて、そう 思う りゆうを 一言 書きます。
- 税金と 保険は、どこが ちがうと 思いますか。一言で 書きます。
- こまった ことが 起きた とき、だれに 話しますか。学校の 中から 1つ 書きます。学校の 外に 思いつく ところが あれば、それも 書きます。
話し合いの問い(答えは1つではありません)
- けがを しやすい 人ほど たくさん 出す ことに したら、どう なるでしょう。
- だれも こまらなかった 年、箱に のこった カードは どう すれば よいでしょう。
評価の観点
観点別評価の規準として使えるように、ねらいと、それを見取る材料を対応させています。
| 観点 | 評価規準 | 何で見取るか |
|---|---|---|
| 知識・技能 | みんなで少しずつ出しておき、こまった人にまとめてわたす仕組みがあることを説明できる。 | ワークシート②の計算と、展開1のあとの発言。 |
| 思考・判断・表現 | そんかどうかについて、自分の考えと理由を書ける。○×どちらの結論でもよい。「出した分は自分では使えなくなる」「何も起きなかった人の手もとには何ものこらない」「出した分はこまった人のところへ行った」「次にこまるのは自分かもしれない」のいずれかに触れていれば、理由として認める。税金とのちがいにも触れられる。 | ワークシート③④の記述と、展開2で板書に並べた理由。 |
| 主体的に学習に取り組む態度 | こまったときに使えるものや相談先を、自分から挙げようとしている。 | ワークシート⑤の記述と、まとめでの発言。 |
指導上の配慮
- 病院の窓口ではらう割合は、いま30%(義務教育就学前は20%)です(2026年7月31日時点、厚生労働省の資料)。児童に出す必要はありません。数字より「かかったお金の全部をはらうわけではない」ことのほうが、この時間のねらいです。割合は制度改正で変わるので、板書に書くときはその年の資料で確かめてください。
- 子どもの医療費の助成は市区町村ごとに内容がちがいます。「小学生はただ」と言い切らないでください。学区内の実際の扱いを確かめたうえで、「住んでいるところによってちがう」という言い方にとどめると、転入してきた児童にも当てはまります。
- 保険の商品を扱わないでください。この時間は仕組みまでです。「入ったほうがよい」「かけ捨てと積立のどちらが得か」は、小学生に判断させる話ではありませんし、本サイトも扱いません。
- 家庭がどんな保険に入っているかを聞かないでください。入っていない家庭もあります。聞いた時点で、その子の家の事情が教室に出ます。ワークシート①も、家のことではなく学校や町のことを書かせる形にしてあります。
- 展開1の「こまったことが起きた役」は、必ずくじで決めてください。指名や立候補にすると、けがや病気の多い児童の話として読まれます。
- 本文の節と授業の流れの対応は、1・2番目の節=導入、3番目=展開1、4番目=展開2、5・6番目=展開3、7番目=まとめです。45分の中で7つの節を読み上げる時間はありません。こども向けページ(/kids/insurance-and-helping)を朝の読書や家庭学習で読ませておき、授業では展開2と展開3に時間を使う形を想定しています。
- 本文の4番目の節は「そんをしたと思うか、思わないか」という問いで止めてあります。ただし、こども向けページを先に読んだ児童は、ワークシート③をすでに考えた状態で来ます。授業で扱うなら、4番目の節は展開2のあとに読ませてください。
- 話し合いの問い①(けがをしやすい人ほどたくさん出すことにしたら)は、必ず「たすけ合いの箱」の中の話として進めてください。実在の児童や、実在の病気・けがを例に出させないでください。持病のある児童、けがや入院を経験した児童が教室にいます。
- ワークシート④と展開3は、税金の単元(/for-teachers/taxes-and-insurance)を扱っていることを前提にしています。先にこちらを扱う場合は、展開3に5分足して税金の説明から始めるか、④を省いてください。
- 病気やけが、火事や災害を、こわがらせる材料に使わないでください。実際に大きな病気やけがを経験した児童、被災した児童が教室にいます。導入で自転車を例にしているのは、被害の大きさではなく「いつ起きるか分からない」ほうを扱うためです。
- 「たすけ合い」を、だれかに恩を返す話に寄せないでください。この仕組みは、だれがこまるか分からないから先に出し合う、というところが要点です。受け取った児童役に「ありがとうを言わせる」と、受け取ることが特別なことに見えます。
- 税金の単元(/for-teachers/taxes-and-insurance)と続けて扱うと分かりやすくなります。順番はどちらが先でもかまいませんが、両方を扱うときは「集め方は似ていて、行き先の決まり方がちがう」を共通の板書にしてください。
- 「保険があるから何をしても平気」という受け取り方が出たら、そのままにしないでください。起きないほうがよいことに変わりはなく、備えは起きたあとを軽くするものだ、という向きに戻します。
出典
- [1]厚生労働省「高額療養費制度に関する参考資料(新しいタブで開きます)」(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます))自己負担限度額の表(令和8年8月〜令和9年7月、令和9年8月〜)を含む。本サイトが転記しているのは令和8年8月〜令和9年7月の分のみ。
タネとチエ https://tanetochie.com/for-teachers/insurance-and-helping/