「扶養の壁」は、2つの別の話
働く時間を増やすかどうかを、積立額より先に決めることになる人がいます。ただ「壁」と呼ばれているものは1つではなく、性質の違う2つが同じ言葉で語られています。まずそこを分けます。
公開
なぜ、これを先に見るのか
毎月の積立額を決めようとすると、その前に「働く時間を増やしていいのか」という問いが出てくる世帯があります。パートやアルバイトで働いていて、配偶者の扶養に入っている場合です。
ここを飛ばして積立額だけ決めると、順番が逆になります。世帯の手取りがどう変わるかのほうが、積立の利回りより先に効くからです。
このページで金額を並べていない理由
税の側も社会保険の側も改正が続いており、適用のされ方は勤務先の規模や働き方によって変わります。ここで転記した数字が古くなると、いちばん影響を受ける人がいちばん困ります。確認できた事実と、自分の場合を確かめる先だけを置いています。2つの「壁」は、性質が違う
扶養には、税の扶養と社会保険の扶養があります。同じ「扶養」という言葉ですが、決めている法律も、判定に使う数字も、超えたときに起きることも別です。
| 税の扶養 | 社会保険の扶養 | |
|---|---|---|
| 何が決まるか | 配偶者控除・配偶者特別控除が使えるか | 自分が健康保険・厚生年金に加入するか |
| 誰の税・保険料が変わるか | 主に配偶者(扶養する側)の所得税・住民税 | 主に自分(働いている側)の保険料負担 |
| 判定に使うもの | 1年間の合計所得金額 | 見込みの収入と、労働時間・勤務先の規模などの加入要件 |
| 超えたときの変わり方 | 控除が段階的に減る(急に0にはならない) | 加入すると保険料の負担が新しく発生する |
| 得られるもの | — | 将来の厚生年金、傷病手当金、出産手当金など |
大事なのは、右の列と左の列で「損得の形」が違うことです。税の側は段階的なので、超えた瞬間に世帯の手取りが逆転する作りにはなっていません。社会保険の側は、保険料の負担が新しく発生するので、手取りが一時的に下がる帯があります。
ただし社会保険は、負担が増えるかわりに受け取れるものも増えます。将来の年金が厚生年金のぶん増え、病気やけがで働けないときの傷病手当金、出産手当金の対象にもなります。手取りだけを見ると負担、保障まで含めると別の見え方になります。どちらを重く見るかは、その世帯の状況によります。
税の側で確認できていること
配偶者特別控除の対象になるのは、配偶者の合計所得金額が58万円を超え133万円以下の場合です(令和7年分から適用される金額)。控除額は所得が増えるにつれて段階的に小さくなります。
ここで注意したいのは、判定に使うのが「年収」ではなく「合計所得金額」だという点です。給与だけで働いている場合、年収から給与所得控除を引いた額がこれに当たります。年収の数字をそのまま当てはめると、判定を間違えます。
「103万円の壁」という言い方について
長く使われてきた言い方ですが、基礎控除や給与所得控除の見直しが入っており、いま何円かは年分によって変わります。金額を覚えるより、「合計所得金額で決まる」「控除は段階的に減る」という2点を覚えておくほうが、あとで間違えません。実際の金額は、その年分の国税庁の資料でご確認ください。社会保険の側は、勤務先によって変わる
短時間で働く人が健康保険・厚生年金の加入対象になるかどうかは、収入だけで決まりません。労働時間や勤務先の規模などの要件があり、その要件の範囲は段階的に広がっています。厚生労働省は、企業規模ごとにいつから対象になるかを示しています。
つまり「いくらから」の答えは、勤務先によって違います。同じ働き方でも、勤務先の規模が違えば結論が変わります。一般論の記事や人から聞いた金額ではなく、自分の勤務先で確かめる必要があるのはこのためです。
- 勤務先の人事・総務に、自分が社会保険の加入対象になる条件を聞く(何時間以上か、いつからか)。
- 厚生労働省の「社会保険適用拡大 特設サイト」で、勤務先の規模から対象時期を確かめる。手取り額の試算ツールもあります。
- そのうえで、加入した場合としない場合で、世帯の手取りと将来の年金がどう変わるかを見る。
配偶者の勤務先の健康保険組合が独自の基準を持っていることもあります。扶養から外れる手続きは配偶者の勤務先を通すので、そちらにも確認先があります。
第3号被保険者と、iDeCo・NISA
配偶者に扶養されている人(国民年金の第3号被保険者)が iDeCo を使う場合、ひとつ知っておくことがあります。iDeCo の大きな利点とされる「掛金が全額所得控除」は、課税所得がある人にだけ効くという点です。
課税所得がなければ、軽減される税がないので、この利点は生じません。その場合に残るのは運用益が非課税であることで、一方で口座管理手数料は課税所得の有無にかかわらずかかります。
NISA は所得控除の制度ではないので、この違いは生じません。また NISA も iDeCo も口座は1人1つで、枠は世帯ではなく個人につきます。夫婦それぞれが自分の名義で持つことになります。
働き方を決める前に、確かめられること
- 自分の合計所得金額がいくらか(源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」で分かります)。
- 勤務先で社会保険の加入対象になる条件と、その時期。
- 加入した場合に増える保険料と、増える保障(年金・傷病手当金・出産手当金)。
- 配偶者の勤務先に、扶養に関する独自の基準や手当(家族手当など)があるか。
最後の項目は見落とされがちです。扶養から外れると配偶者の家族手当がなくなる、という勤務先があります。これは制度ではなく会社ごとの取り決めなので、就業規則を見るか、聞くしかありません。
ここまで揃えば、「働く時間を増やすかどうか」を自分の数字で考えられます。増やす・抑えるのどちらが正しいという答えは、この4つを見たあとにしか出てきません。
出典
- [1]国税庁「タックスアンサー No.1195 配偶者特別控除」配偶者特別控除の対象は、配偶者の合計所得金額が58万円超133万円以下(令和7年分から)。控除額は所得に応じて段階的に減る。
- [2]厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」短時間労働者が社会保険の加入対象になる要件と、企業規模による段階的な適用拡大の予定。手取り額の試算ツールもある。
- [3]国民年金基金連合会「iDeCo公式サイト(拠出限度額)」