iDeCo の受け取り方 —— 一時金と年金、順番と間隔
iDeCo の話は、積み立てているあいだのこと(掛金が所得控除になる)に集中しがちです。ところが受け取り方は自分で選ぶもので、選び方によってかかる税の種類が変わります。しかも、選べる期間には上限があります。ここでは、何が決められて何が決められないのか、そして何によって結論が変わるのかまでを整理します。有利な受け取り方を示すページではありません。
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受け取り方で、効く控除が変わる
老齢給付金の受け取り方は、大きく2つに分かれます。まとめて受け取るか、分けて受け取るかです。この2つは、税のうえでは別の所得として扱われます。
| 受け取り方 | 所得の区分 |
|---|---|
| 一時金として受け取る | 退職所得(退職所得控除の対象) |
| 年金として受け取る | 公的年金等に係る雑所得(公的年金等控除の対象) |
一時金と年金を組み合わせられる場合もありますが、取り扱いは運営管理機関によって違います。自分の口座で何が選べるかは、そこに確かめることになります。
いつからいつまでに受け取り始めるか
受け取り始められるのは、原則として60歳からです。上限は75歳で、請求しないまま上限の年齢に達したときは支給されます。この上限は2022年4月に70歳から引き上げられたもので、公的年金の受給開始の選択肢が広がったのに合わせた変更です。
ただし、60歳から請求できるかどうかは、加入していた期間(通算加入者等期間)で決まります。10年以上あれば60歳からで、足りない場合は請求できる年齢が段階的に繰り下がります。
| 通算加入者等期間 | 請求できるようになる年齢 |
|---|---|
| 10年以上 | 60歳 |
| 8年以上 | 61歳 |
| 6年以上 | 62歳 |
| 4年以上 | 63歳 |
| 2年以上 | 64歳 |
| 2年未満 | 65歳 |
決められることと、決められないこと
請求する時期と受け取り方は自分で選べます。一方、会社を辞める時期や退職金が支払われる時期は、たいてい選べません。あとで出てくる「順番」の話は、選べるほうを動かして間隔を作れるか、という話になります。一時金は「退職所得」になる
一時金として受け取ると、退職所得として扱われ、退職所得控除を差し引けます。控除の額は期間の長さで決まります。20年までは1年あたり40万円、20年を超える部分は1年あたり70万円です(20年ちょうどで800万円、計算した額が80万円に満たないときは80万円)。1年未満の端数は切り上げになります。
ここで使う「期間」は、会社員なら勤続年数ですが、iDeCo の一時金では掛金を払い込んだ期間で数えます。長く払い込んだ人ほど控除が大きくなる、という作りです。
控除を差し引いてもなお残る部分は、その半分が課税対象になります。一度にまとめて受け取る形をならして、毎年少しずつ受け取った場合との差を縮めるための作りだと説明されています。
半分にならない場合がある
期間が5年以下の場合(短期退職手当等)は、控除を差し引いた残りのうち300万円を超える部分について、半分にする計算が使えません。役員等としての期間が5年以下の場合は、そもそも半分にする計算がありません。ただし後者は、同じ年に受け取る会社の退職金の側の話で、iDeCo の一時金そのものが当たるものではありません。退職金と重なると、控除は共有される
会社の退職金も、iDeCo の一時金も、同じ退職所得控除を使います。ここで、同じ期間について控除を二重に使えないようにする調整があります。前に受け取った退職手当等の期間と重なっている部分は、控除から差し引かれる、という形です。
調整の対象になるかどうかは、どれだけ前に受け取ったかで決まります。そして、遡って見る期間は受け取る順序によって違います。
| 受け取る順序 | 遡って見る期間 | 調整を受けない間隔 |
|---|---|---|
| iDeCo の一時金が先、会社の退職金があと | 前年以前9年内 | 10年 |
| 会社の退職金が先、iDeCo の一時金があと | 前年以前19年内 | 20年 |
| iDeCo が絡まない退職手当等どうし | 前年以前4年内 | 5年 |
「同じ年に受け取らなければ関係ない」という話ではない、というのがここの要点です。順序によっては、かなり前に受け取ったものまで見られます。
遡る期間は、片方だけ変わっている
iDeCo の一時金を先に受け取る場合の期間は、以前は前年以前4年内でした。2026年1月1日以後に支払を受けた iDeCo の老齢一時金については、前年以前9年内を見ることになっています。それより前に支払を受けたものには、いまも改正前の期間が使われます。
逆の順序(会社の退職金が先)の前年以前19年内と、iDeCo が絡まない場合の前年以前4年内は、この改正では変わっていません。変わったのは片側だけです。
「◯年ルール」という言い方に注意する
この改正は「5年ルールが10年ルールになった」と紹介されることがあります。間隔で言えばそのとおりですが、条文の書き方は「前年以前9年内」です。どちらの数え方で話しているのかを取り違えると、1年ずれます。自分の場合を確かめるときは、年数だけでなく「何年内」なのか「何年空けるのか」まで一緒に見ることになります。まとめて受け取るか、分けて受け取るか
ここまでが仕組みです。そのうえで、どちらを選ぶかは人によって変わります。両側の理屈を並べます。
一時金でまとめて受け取るという整理
- 退職所得控除の対象になる。払い込んだ期間が長いほど控除が大きい。
- 会社の退職金と近い時期に受け取ると、その控除が調整される。順序と間隔で額が変わる。
- 控除の枠に収まる範囲であれば、受取時の課税は生じない。ただし枠は会社の退職金と共有する。
- 受け取ったあとの置き場所と使い道を、自分で決めることになる。
年金として分けて受け取るという整理
- 公的年金等控除の対象になる。退職所得控除とは別の枠で、退職金との調整は受けない。
- 控除の枠に収まる範囲であれば課税は生じない。ただし枠は公的年金と共有する。
- 受け取る年が分かれるので、1年に乗る所得が小さくなる。
- 受け取り終えるまで口座が残るため、その間の手数料がかかる(一時金は受け取りが一度で終わる)。
どちらの控除が使いやすいかは、控除の枠に収まるかどうか、退職金がいくらか、その年に他の所得がいくらあるかで入れ替わります。金額だけでも、順序だけでも決まりません。
何によって結論が変わるか
- 掛金を払い込んだ期間の長さ。退職所得控除の額がここで決まります。
- 会社の退職金があるかどうかと、その額。
- 受け取る順序と、あいだが何年空くか。
- その年に他の所得がどれだけあるか。
この4つのうち、自分で動かせるのは3番目だけであることが多いはずです。しかもその3番目は、請求できる年齢の範囲という上限に縛られています。
所得の区分が違うと、他の負担への効き方も変わる
退職所得は他の所得と分けて計算され、公的年金等に係る雑所得は他の所得と合わせて計算されます。所得の大きさで決まる負担(保険料など)への効き方は、この違いに従います。ただし何をどう見るかは制度ごとに分かれるので、確認する先も分かれます。受け取る側から見ると
いつ、どこに確かめるか
退職金の額と支払われる時期は勤務先、iDeCo の受け取り方として何が選べるかは運営管理機関に確かめることになります。そのうえで、間隔を作れるのかどうかが決まります。
調べ始める時期を決めておく
受け取り方を決めるのは受け取る直前ですが、間隔を作る余地があるかどうかは、その何年も前に決まってしまっています。金額を決めるのは先でよいので、いつ調べ始めるかだけを先に決めておく、という手はあります。出典
- [1]国税庁「タックスアンサー No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版))退職所得控除額の計算(勤続20年以下は40万円×年数・最低80万円、20年超は800万円+70万円×超過年数)と、2分の1課税およびその例外。令和7年4月1日現在法令等。
- [2]国税庁「タックスアンサー No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版))前年以前に他の退職手当等を受け取っている場合の退職所得控除額の調整。前年以前4年内・9年内・19年内の3つの区分と、9年内が令和8年1月1日以後に支払を受ける確定拠出年金の老齢一時金に係るものであることを記載している。令和7年4月1日現在法令等。
- [3]デジタル庁 e-Gov法令検索「所得税法 第30条(退職所得)・第31条(退職手当等とみなす一時金)・第35条(雑所得)」(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版))退職所得控除額(第30条第3項)、2分の1課税と短期退職手当等・特定役員退職手当等の例外(同条第2項・第4項・第5項)、控除額の下限80万円(同条第6項第2号)の根拠条文。
- [4]デジタル庁 e-Gov法令検索「所得税法施行令 第70条(退職所得控除額の計算の特例)・第72条・第82条の2」(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版))前に受け取った退職手当等との重複調整の期間(第70条第1項第2号イ・ロ・ハ)。令和7年政令第120号による改正後の条文が2026年1月1日から施行されている。確定拠出年金の老齢給付金として支給される一時金は第72条第3項第7号、年金は第82条の2第2項第6号。
- [5]デジタル庁 e-Gov法令検索「確定拠出年金法 第33条・第34条・第73条(老齢給付金の支給要件と支給の方法)」(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版))老齢給付金を請求できる年齢の下限(第33条)と、請求しないまま到達したときに支給される年齢の上限(第34条)。個人型(iDeCo)には第73条が準用する。上限は令和2年法律第40号により2022年4月1日から70歳が75歳になった。
- [6]厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版))老齢給付金の受給要件(原則60歳、通算加入者等期間が10年に満たない場合の段階的な繰り下がり)と、給付時の税制(年金は公的年金等控除、一時金は退職所得控除)を表で示している。
- [7]厚生労働省「確定拠出年金制度 2020年の制度改正」(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版))受給開始時期の選択肢の拡大。2022年4月1日から老齢給付金の受給開始の上限年齢が70歳から75歳になった。