公的年金の見通し
「年金はもらえるのか」という問いには、公的な見通しがあります。5年ごとに行われる財政検証の結果です。
まず、よくある誤解について
財政検証は「年金がもらえなくなる」ことを示していません。示しているのは給付の水準(現役世代の手取りに対する比率)が下がる見通しです。「ゼロになる」と「水準が下がる」はまったく別の話です。
いまの水準(2024年度)
所得代替率 =(夫婦2人の基礎年金 + 夫の厚生年金)÷ 現役男子の平均手取り収入額
(13.4万円 + 9.2万円)÷ 37万円 = 61.2%
モデル世帯(40年間平均的な収入で就業した夫と専業主婦)で、月額 22.6万円 を受け取る計算です。現役世代の手取り37万円に対する比率が、所得代替率です。
基準日 2024年7月3日 / 取得日 2026年8月30日
将来の見通し(4つの経済前提)
財政検証は単一の予測ではなく、複数の経済前提ごとに見通しを示します。給付水準の調整(マクロ経済スライド)が終わったあとに落ち着く所得代替率です。
| ケース | 最終的な所得代替率 | 調整終了年度 | 実質賃金上昇率 | スプレッド |
|---|---|---|---|---|
| 高成長実現ケース成長実現・労働参加が進展する前提。4ケースのうち最も高い経済成長を想定する。 | 56.9% | 2039 | 2.0% | 1.4% |
| 成長型経済移行・継続ケース成長型経済への移行が実現し継続する前提。 | 57.6% | 2037 | 1.5% | 1.7% |
| 過去30年投影ケース過去30年間の実績が今後も続く前提。「これまでと同じことが続いたら」に相当し、参考にされることが多い。 | 50.4% | 2057 | 0.5% | 1.7% |
| 1人当たりゼロ成長ケース1人当たりの経済成長がゼロ、労働参加も現状のまま推移する前提。 | 50%を下回る | — | 0.1% | 1.3% |
- 高成長実現ケース: 実質経済成長率は成長型経済移行・継続ケースより高いが、賃金を上回る実質的な運用利回り(スプレッド)が低いため、所得代替率はそちらより低くなる。
- 1人当たりゼロ成長ケース: 4ケースのうちこのケースだけ所得代替率50%を確保できない見通し。機械的に給付水準調整を続けた場合、国民年金の積立金は2059年度になくなり完全な賦課方式に移行する(同年度時点の所得代替率は50.1%、その後は37%〜33%程度)。
- 「スプレッド」は、賃金上昇率を上回る実質的な運用利回りのことです。積立金の運用が年金財政に効く経路を表しています。
家計にとって何を意味するか
所得代替率が 61.2% から 50.4%(過去30年投影ケース)へ下がるということは、現役男子の平均手取り37万円に対して、
月あたり 約4万円
の差になるという意味です。年間では約48.0万円、30年間では約1440万円です。
ただしこれは、現役世代の手取りに対する比率の差から機械的に計算した参考値です。将来の実際の手取り水準によって変わります。
読むときの注意
- 財政検証は「予測」ではなく、一定の前提を置いた場合の見通しです。前提が変われば結果も変わります。少なくとも5年ごとに実施されます。
- 所得代替率はモデル世帯(40年間平均的な収入で就業した夫と専業主婦)の数値です。共働き、自営業、就業期間が短い場合などは実際の水準が異なります。
- 所得代替率が下がるということは、現役世代の手取りに対する年金の比率が下がるという意味です。年金額そのものが名目で減ることを直接示すものではありません。
- 2024年財政検証では、女性・高齢者の労働参加の進展と積立金の運用が好調だったことで、前回(2019年)より将来の給付水準の見通しは改善しています。
- 受給開始を繰り下げると年金額は増えます(最大75歳まで、1か月あたり0.7%増)。逆に繰り上げると減ります。
自助はこの上に乗ります
公的年金は、終身で受け取れて物価にある程度連動する収入です。民間の商品では簡単には作れません。これがあることを前提に、足りない分をどう用意するかという順序で考えるほうが、必要額を正しく見積もれます。
自分の見込額は、ねんきんネットで確認できます。モデル世帯の数値ではなく、自分の記録から計算された額です。共働き、自営業、就業期間が短い場合は、モデル世帯とかなり異なります。
不足額から必要な資産を逆算する試算は、老後資金シミュレーターで行えます。初期値には、このページの22.6万円を入れてあります。
繰下げ受給という選択肢
受給開始を繰り下げると、1か月あたり0.7%ずつ年金額が増えます。70歳まで繰り下げれば42%増、75歳まで繰り下げれば84%増です。
これは「長生きした場合の保険」として機能します。ただし、早く亡くなった場合は繰り下げないほうが受取総額は多くなり、年金額が増えると税や社会保険料も増えます。詳しくは出口戦略のページで扱っています。
出典
- [1]厚生労働省「2024(令和6)年財政検証結果」公的年金の長期見通し。複数の経済前提ケースごとの所得代替率を示す。