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タネとチエ

控除の額が上がり、「物価を見て見直す」が法律に書かれました

所得税は、収入から給与所得控除などを引いた所得に、さらに基礎控除などを引いた残りに対してかかります。所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号。2026年3月31日公布)で、この基礎控除の額と、給与所得控除の最低保障額が引き上げられました。金額が動いたことに加えて、この改正には読み方が2つあります。1つは、額を見直すときに物価を見るという考え方が附則に書かれたこと。もう1つは、施行される日と、どの年分の所得から効くかが同じ日ではないことです。

コラム

公開

何の額が上がったのか

基礎控除は、所得税を計算するときに誰にでも関係してくる控除です。給与所得控除の最低保障額は、給与で働いている人について、収入が少ない場合でもこれだけは引ける、という下限の額です。今回の改正で、どちらも所得税法の本則の額が上がりました。

国税庁「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」と、所得税法・租税特別措置法の条文(e-Gov法令検索)によります。改正前の額は2026年4月1日現在の法令等による資料の「改正前」欄です。本則の額と特例の額を、同じ表の中で分けて並べています。
何の額か改正前改正後
基礎控除(所得税法の本則)58万円62万円
給与所得控除の最低保障額(所得税法の本則)65万円69万円
給与所得控除の最低保障額(租税特別措置法の特例)置かれていませんでした74万円(令和8年分・令和9年分)

基礎控除の側は、本則の額が4万円上がった、という形です。ただし、これがそのまま「引ける額」になるとは限りません。合計所得金額が一定額以下の場合には、租税特別措置法による加算が本則の額の上に乗るので、実際に引ける額はこの表の数字より大きくなります。加算のほうは合計所得金額で分かれるので、一律にいくら、という書き方ができません。

「最低保障額」の数字が、資料によって2つ出てきます

給与所得控除の最低保障額には、所得税法の本則の額と、租税特別措置法の特例の額があります。令和8年分・令和9年分に実際に効くのは特例のほうで、本則の額が効いてくるのは令和10年分以後です。改正の大綱は本則の引上げを書き、国税庁の資料は特例が適用されたあとの額を書いているので、同じ「最低保障額」の説明で数字が違って見えることがあります。どちらかが誤りというわけではなく、見ている層が違います。

この記事で扱う範囲

ここで挙げているのは所得税の金額です。個人住民税にも基礎控除・給与所得控除がありますが、根拠になる法律(地方税法)が別で、適用される年度もずれます。住民税の金額はこのページでは扱いません。

施行される日は、2つある

改正法は公布されていて、施行日も決まっています。ただし、1つの日ではありません。改正の中身によって、施行される日が2つに分かれています。

国税庁「令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A」によります。同資料は2026年5月1日現在の法令・通達等によるとされています。
何がいつ施行されるか
基礎控除・給与所得控除の最低保障額の引上げ、扶養親族等の所得要件の改正2026年12月1日
源泉徴収税額表の改正、公的年金等に係る基礎的控除額の引上げ2027年1月1日

分かれている理由は、変わるものの性質が違うところにあります。控除の額そのものは1年分の所得に対して計算するもので、源泉徴収税額表は毎月の給与から引く額を出すための表です。後者は「いつ支払う給与から使うか」で切るほうが実務に合うので、2027年1月1日以後に支払うべき給与等から、という切り方になっています。

どの年分の所得から効くのか

前の節の日付は、法律が施行される日です。これとは別に、どの年分の所得税から適用されるかが決まっていて、こちらは令和8年分(2026年分)以後の所得税とされています。

2026年分の所得税は、2026年1月から12月までの所得について計算します。つまり、施行日より前に得ていた所得も、同じ年分であれば引上げ後の額で計算されることになります。

施行日と適用年分を、1つの文にまとめないこと

「施行の月から控除が増える」と読むと、その月より前の所得が対象外になってしまいます。逆に「年の初めから増えている」と読むと、施行日そのものの説明が落ちます。2つは別の軸で決まっているので、資料を読むときも別々に確認するほうが混ざりません。

初年の源泉徴収は、どう扱われるのか

適用が年の初めからだとすると、毎月引かれている所得税はどうなるのか、という話になります。ここは資料が明示していて、令和8年11月までの給与等・公的年金等の源泉徴収事務に変更はないとされています。

そのうえで、令和8年12月に行う年末調整で、引上げ後の基礎控除額と改正後の給与所得控除後の給与等の金額の表により1年分の税額を計算し、改正前の源泉徴収税額表で計算した税額との差を精算するという形になります。改正の大綱も、見直しの初年については年末調整から対応する(月次の源泉徴収では対応しない)という考え方を書いています。

毎月引かれる所得税が概算で、年末調整で1年分を精算する仕組みであること自体は、改正とは関係なく前からそうなっています。仕組みの側は手取りは、何で決まるかで扱っています。精算の結果が戻る側になるか、追加で引かれる側になるかは、人によって違います。控除が増えたことと、年末に戻ってくることは、同じ話ではありません。

「物価を見て見直す」は、どこまで決まったのか

今回の改正で、もう1つ置かれたものがあります。控除の額を見直すときに物価を見る、という考え方です。書かれている場所は、所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号)附則第101条です。

  • 見直しの間隔 — 2年ごとに見直しを行うことを基本とする、という書き方です。
  • 見る指標 — 全国消費者物価指数の変化率。直前の見直し後の額に、その後の変化率を乗じて得た額を基準にするとされています。
  • 対象になる年分 — 令和10年分以後の所得税の基礎控除の額について。給与所得控除の最低保障額も同様とされています。

ここで正確に押さえておきたいのは、この規定の性格です。附則の条文は「政府において……見直しを行うことを基本とするものとし」という書き方で、控除の額そのものを改めるものではありません。所得税法の本則に入っているのは定額で、物価から自動で計算する算式は置かれていません。つまり見直しの考え方を示した方針規定(改定は税制改正で行う)、という整理になります。

「自動で上がるようになった」とは書けません

物価が上がった分だけ控除の額が毎年動く、という仕組みではありません。見直しの考え方が附則に示され、実際の改定はそのたびの税制改正で行われる、という形です。額がいつ、どれだけ動くかは、そのときに決まります。

定額の控除は、物価が上がると引ける額の実質的な重みが下がっていきます。今回の附則は、その点を見直しの考え方として文章にしたものだと読めます。控除の額を「一度覚えたら変わらない数字」として持つのではなく、どの年分の額を見ているのかを添えて確認するほうが、あとで取り違えにくいと言われます。

自動で上がるようになったのか

これからは、物価が上がった分だけ控除の額も毎年上がるということか
毎年自動で動く仕組みまでは入っていません。附則に書かれたのは、2年ごとに、全国消費者物価指数の変化率を乗じて得た額を基準として見直しを行うことを基本とする、という考え方です。額そのものを改めるのは、そのたびの税制改正だと説明されています。
考え方が書かれただけなら、見直しが行われない年があってもおかしくないのではないか。それだと、何が変わったことになるのか
そう読めるところまでを、上の説明は言い切っていませんでした。附則は政府に対して見直しの考え方を示した規定で、いつ・どれだけ改めるかは、そのときの税制改正で決まります。変わったのは、見直しの根拠と間隔と指標が文章として置かれたところまでです。だから、この規定から先の年の控除額を逆算する、という読み方はできません。
今回上がった分は、いつの所得から効くのか
施行される日と、適用される年分は別に決まっています。この部分の施行は2026年12月1日で、適用は令和8年分(2026年分)以後の所得税です。同じ年分であれば、施行日より前の所得も引上げ後の額で計算されることになります。
住民税の基礎控除も、同じように上がったのか
住民税は根拠になる法律が別で、適用される年度もずれます。同じ名前の控除がありますが、額も時期も別に決まるので、このページでは扱っていません。市区町村や都道府県の資料で確認することになります。

同じ改正で、扶養や配偶者の所得要件も動いた

基礎控除の額が動くと、それを基準にしている別の要件も動きます。今回の改正では、扶養親族・同一生計配偶者の合計所得金額の上限が62万円以下になり、配偶者特別控除の対象になる合計所得金額の範囲は62万円を超え133万円以下になりました。

所得要件を給与収入に換算した額も資料には出ていますが、その換算には給与所得控除の最低保障額の特例が効いています。つまり、換算後の金額は令和8年分・令和9年分のもので、令和10年分以後は変わります。要件の側の整理は「扶養の壁」は、2つの別の話が持っています。

では、何ができるか

  1. 控除の額を見るときは、どの年分の額なのかを一緒に確認する。本則の額と特例の額があり、効く年分が違います。
  2. 施行される日と、適用される年分を分けて読む。この部分の施行は2026年12月1日、適用は令和8年分(2026年分)以後の所得税です。
  3. 毎月の給与から引かれる所得税がいつ動くかは、源泉徴収税額表の側の日付(2027年1月1日)で決まります。控除の額の施行日とは別です。
  4. 物価を見て見直すという考え方は附則に置かれたもので、改定は税制改正のたびに行われます。先の年の額は、いまの条文からは分かりません。
  5. 住民税の側は別の法律で決まります。金額と時期は、住んでいる自治体の資料で確認することになります。

この改正でいくら手取りが変わるか、という計算はここでは置いていません。控除が増えた分が税額にどう効くかは、その人の所得や、ほかに引ける控除で変わるので、一律の数字になりません。代わりに持っておくと効くのは、控除の額が動くものになったことと、動いたときにどの年分から効くのかを確かめる順番のほうだと思います。

出典

  1. [1]国税庁令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)基礎控除の引上げ・給与所得控除の最低保障額の引上げ・扶養親族等の所得要件の改正は、令和8年12月1日に施行され、令和8年分以後の所得税について適用される。令和8年11月までの源泉徴収事務に変更はない。
  2. [2]国税庁令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)令和8年5月1日現在の法令・通達等による。Q1-1が施行日を2つに分けている。基礎控除の引上げ・給与所得控除の最低保障額の引上げ・扶養親族等の所得要件の改正は令和8年12月1日施行で令和8年分以後の所得税に適用、源泉徴収税額表の改正と公的年金等の基礎的控除額の引上げは令和9年1月1日施行で同日以後に支払うべきものに適用。
  3. [3]国税庁令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)令和8年4月1日現在の法令等。扶養親族等の所得要件(扶養親族・同一生計配偶者は62万円以下、配偶者特別控除の対象となる配偶者は62万円超133万円以下)を、給与収入に換算した金額とあわせて表で示している。
  4. [4]デジタル庁 e-Gov法令検索所得税法 第28条(給与所得)・第30条(退職所得)・第31条(退職手当等とみなす一時金)・第35条(雑所得)・第86条(基礎控除)(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)退職所得控除額(第30条第3項)、2分の1課税と短期退職手当等・特定役員退職手当等の例外(同条第2項・第4項・第5項)、控除額の下限80万円(同条第6項第2号)の根拠条文。給与所得控除額と最低保障額は第28条第3項、基礎控除の額は第86条第1項。令和8年度税制改正による額(基礎控除62万円・最低保障額69万円)は2026年12月1日施行版に入っているので、e-Gov の時点指定で切り替えて確認する。物価上昇局面の見直しについて定めた令和8年法律第12号の附則第101条も、このページの附則(抄)として読める。
  5. [5]デジタル庁 e-Gov法令検索租税特別措置法 第29条の4(給与所得控除の最低控除額等の特例)・第41条の16の2(令和8年分以後の各年分の基礎控除等の特例)(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)所得税法の本則に上乗せされる特例。給与所得控除の最低保障額は令和8年・令和9年に限り74万円(第29条の4第1項。収入金額220万円以下の場合)、基礎控除は合計所得金額655万円以下の場合に加算がある(第41条の16の2第1項)。どちらも2026年12月1日施行版で確認する。
  6. [6]財務省令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日 閣議決定)(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)「一 個人所得課税 1 物価上昇局面における基礎控除等の対応」に、基礎控除等を見直す基本的考え方(本則部分に税制改正時における直近2年間の消費者物価指数(総合)の上昇率を乗ずる、端数は万円単位、見直し初年は年末調整から対応)と、基礎控除4万円の引上げ・給与所得控除の最低保障額65万円→69万円が書かれている。大綱は閣議決定の段階の文書で、法律そのものではない。条文は e-Gov で確認する。