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タネとチエ

手取りは、何で決まるか

額面と手取りの差は、毎月の明細の「控除」の欄に並んでいます。ただ、そこに並ぶ項目は、決め方も、いつの分かも、根拠になる法律も別々です。ここでは、どの欄に何が、どういう順で乗っているかまでを扱います。増やし方の話ではありません。

解説

最終更新

なぜ、これを先に見るのか

家計の話は「今月いくら残ったか」から始まりがちですが、その手前に「そもそも手取りがどう決まっているか」があります。手取りは額面から控除を引いた残りで、控除の側は自分で決めていないぶん、中身を見ないまま毎月が過ぎていきます。

見ないままでも困らない月がほとんどです。ただ、昇給したのに手取りがあまり増えない、何も変えていないのにある月から減った、制度が変わったと聞いたけれど明細のどこが動いたのか分からない、という場面になると、控除の欄の読み方がないと調べる入口がありません。

家計を「持ち物と借り物」で見る記事では、ある時点の残高の側を扱いました。ここはその対になる流れの側、つまり毎月入ってくる額がどう決まるかの入口です。

この記事で扱わないこと

手取りを増やす方法は扱いません。「この控除を使うと得」という形は、書いた時点で節税の指示になります。扱うのは、明細のどこを見れば何が分かるか、と、何かが変わったときにどの欄が動くか、までです。率や金額も本文に書きません。年度や、加入している制度で変わるので、確認する先だけを示します。

明細は、3つの欄でできている

勤務先ごとに様式は違いますが、給与明細はおおむね3つの欄でできています。

手取りは、支給の欄と控除の欄の差として出てきます。支給の側は勤務先との話で、控除の側の大半は勤務先の外で決まっています。
何が並ぶか誰が決めているか
支給基本給、残業代、通勤手当などの手当勤務先(雇用契約と就業規則)
控除社会保険料と、税。ほかに組合費や財形貯蓄など、勤務先ごとのもの法律で決まるもの(社会保険料・税)と、勤務先や本人が申し込んだもの
差引支給額支給の合計から控除の合計を引いた残り。いわゆる手取り計算の結果なので、誰も直接は決めていない

この記事で扱うのは控除の欄です。支給の欄は勤務先との話なので、立ち入りません。控除の欄のうち、組合費や財形貯蓄のように自分で申し込んだものは、明細を見れば分かります。分かりにくいのは、申し込んだ覚えがないのに乗っている側、つまり社会保険料と税です。

控除の欄には、性質の違う2つが乗っている

控除の欄に並んでいるものは、大きく「社会保険料」と「税」の2つに分かれます。同じ欄に並んでいますが、根拠になる法律も、集めている先も、何を元に額が決まるかも別です。

同じ「控除」の欄でも、何を元に計算されるかと、いつの分かが、項目ごとに違います。率や額は年度や加入している制度で変わるので、ここには書いていません。
項目何を元に決まるかいつの分か集めている先
健康保険料・厚生年金保険料(一定の年齢からは介護保険料も)標準報酬月額。毎月の給与そのものではなく、給与を一定の幅で区分した額その月の分。ただし元になる標準報酬月額は、決まった時期にしか見直されない健康保険は加入している保険者(協会けんぽ・健康保険組合など)、厚生年金は国
雇用保険料その月に実際に支払われた給与の額その月の分国(労働保険)
所得税その月の給与から社会保険料を引いた額と、扶養親族の数その月の分の仮の額。年末に1年分で精算する
住民税前年1年間の所得前年の分。翌年の6月から、12回に分けて引かれる住んでいる市区町村(都道府県の分もまとめて)

表で見てほしいのは「いつの分か」の列です。健康保険料と厚生年金保険料は、標準報酬月額という、年に一度の決まった時期に見直される額を元にしています。4月から6月の給与を元に決めて、9月から使う、という形で、毎月の給与の上下にはすぐには連動しません。大きく変わったときに途中で見直す仕組み(随時改定)もありますが、それでも変わった月からではなく、少し遅れて反映されます。

所得税は、毎月の分を仮に引いておき、年末調整で1年分を精算します。だから毎月の額はあくまで概算で、年末の月に戻ってきたり追加で引かれたりするのは、間違いではなく仕組みです。

住民税は前年の所得に対してかかり、翌年の6月から引かれ始めます。いちばん遅れて来る項目で、「去年の働き方が、今年の明細に出る」という形になっています。働き始めた最初の年に住民税の欄が空いているのも、前の年に所得がなければかからない、という同じ仕組みから来ています。

あとから乗るものは、既存の欄に乗る

制度改正で新しく集められるものは、たいてい既存のどれかの欄に乗ります。子ども・子育て支援金は、2026年4月分の保険料から医療保険の保険料に上乗せする形で集められているので、明細では社会保険料の側に出ます。どの行に分けて出るかは、勤務先の様式で違います。改正のたびに欄が増えるのではなく、どの欄に乗ったのかを見る、という読み方になります。

引かれる順番がある

控除の欄には順番があります。並び順の話ではなく、計算の元になる金額が、前の項目を引いたあとの額になっている、という意味の順番です。

  1. 支給の合計(額面)から出発する。
  2. 社会保険料が決まる。健康保険料と厚生年金保険料は標準報酬月額を元に、雇用保険料は額面そのものを元に。ここは税の計算より先に立つ。
  3. 税の計算では、その社会保険料を引いた残りが元になる。払った社会保険料は「社会保険料控除」という所得控除として扱われるので、税は社会保険料を引いたあとの金額に対してかかる。
  4. 所得税は、そこからさらに給与所得控除と、扶養や生命保険料などの所得控除を引いた残り(課税所得)に税率をかけて決まる。毎月の明細に出るのは、この1年分の見込みを月ごとに割った仮の額。
  5. 住民税は、同じ考え方を前年の所得に当てて市区町村が計算した額が、翌年の6月から分けて引かれる。

この順番から言えるのは、社会保険料と税は独立ではない、ということです。社会保険料が変われば、税の計算の元になる金額も変わります。逆に、扶養する家族が増えて所得控除が増えても、社会保険料の側は動きません。控除の欄を「どちらの側の話か」で分けて見ると、何が動いて何が動かないかが読めます。

所得控除は、控除された額がそのまま手取りに戻る仕組みではありません。減るのは、控除額に税率をかけたぶんの税額です。ここは誤解の多いところなので、用語集の「所得控除」と「課税所得」にもう少し詳しく書いてあります。

何かが変わったとき、どの欄が動くか

読み方が一度分かると、変化が来たときに「どの欄の話か」から入れます。よくある場面を、動く欄と動く時期で並べます。

「すぐ」と「遅れて」の区別は、その項目が何を元に決まるかの違いから来ています。動く時期の細かい決まりは、加入している保険者や勤務先の締め日でも変わります。
起きたことすぐ動く欄遅れて動く欄
昇給した雇用保険料と所得税(その月から)健康保険料・厚生年金保険料(次の定時決定か随時改定から)。住民税(翌年の6月から)
残業が続いた雇用保険料と所得税(その月から)4月から6月に重なると、9月からの標準報酬月額の元になる。住民税(翌年の6月から)
扶養する家族が増えた・減った所得税(届け出たあとの給与から。年末調整で1年分を精算)住民税(翌年の6月から)。社会保険料の側は動かない
働き始めた最初の年社会保険料・雇用保険料・所得税住民税は、前の年に所得がなければ翌年の6月まで欄が空いている
制度が改正された改正の対象になった項目の欄項目ごとに施行の時期が違う。本サイトでは施行日を出典と一緒に載せている

昇給したのに、増えた気がしない

ここからできること

手取りを増やす話はここでは扱いませんが、読めるようにしておくことは、それ自体が備えになります。何かが動いたときに、慌てる前に「どの欄の、いつの分か」から見られるからです。

  1. 手元の明細を1枚、控除の欄だけ見る。項目ごとに「社会保険料」か「税」かを書き分ける。
  2. 同じ項目に「今月の分」「去年の分」を書き添える。住民税だけが去年の分で、あとは今月の分、という形になっている。
  3. 年に一度の源泉徴収票が届いたら、「社会保険料等の金額」「所得控除の額の合計額」の欄が、毎月の明細のどこの合計にあたるかを見る。
  4. 何かが変わったときは、上の表で「どの欄が、いつ動くか」を先に見てから、明細を見比べる。

率や限度額そのものは、加入している保険者・勤務先・住んでいる市区町村の案内に出ています。本サイトで扱っている制度の値は、基準日と出典を添えて掲載しているものだけです。

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出典

  1. [1]日本年金機構厚生年金保険の保険料(新しいタブで開きます)(利用条件: 原則としてリンクフリー・転載フリー(転載の制限が注記されているページを除く)(新しいタブで開きます)保険料は標準報酬月額(賞与は標準賞与額)に保険料率をかけて計算し、事業主と被保険者が半分ずつ負担する。標準報酬月額は毎年9月に4月から6月の報酬月額を元に改定され(定時決定)、大幅な変動があれば途中でも改定される(随時改定)。率と等級表は同ページから辿る。
  2. [2]厚生労働省雇用保険料率について(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)年度ごとの雇用保険料率(労働者負担・事業主負担の内訳、事業の種類ごと)の資料が並ぶ。率は年度で変わるので、本サイトの本文には書き写さない。
  3. [3]国税庁タックスアンサー No.2511 税額表の種類と使い方(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)毎月の給与から源泉徴収する所得税は「給与所得の源泉徴収税額表」で求める。月額表は、その月の給与から社会保険料等を控除した後の金額と、扶養親族等の数で税額が決まる。税額表そのものは年分ごとに公表される。
  4. [4]国税庁タックスアンサー No.2662 年末調整のしかた(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)給与の支払者は支払いのつど所得税を源泉徴収するが、その1年分の合計は納めるべき税額と一致しないため、年末に差額を精算する(年末調整)。多ければ還付、少なければ徴収。
  5. [5]国税庁タックスアンサー No.1410 給与所得控除(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)給与所得は収入金額から給与所得控除額を引いて求める、という仕組みの説明と、収入金額の区分ごとの控除額の表。控除額の表は年分で変わる。改正の内容は nta-2026-kiso。数値は年分ごとに確認する。
  6. [6]総務省地方税制度 個人住民税(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)個人住民税は所得割と均等割からなり、所得割は前年の1月1日から12月31日までの所得で算定される。会社員は原則として特別徴収(市町村からの税額通知を元に、会社が給与から天引きして納める)。率・均等割の額は同ページに載っているが、本サイトの本文には書き写さない。
  7. [7]デジタル庁 e-Gov法令検索地方税法 第321条の5(給与所得に係る特別徴収税額の納入の義務等)(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)給与所得に係る個人住民税の特別徴収は、6月から翌年5月まで、毎月の給与の支払をする際に徴収する(12回)。法令検索の1ページが地方税法全体なので、条文は第321条の5を引く。
  8. [8]こども家庭庁子ども・子育て支援金制度について(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)令和8年4月分の保険料からの拠出開始、集める3つの経路、令和8年度の被用者保険の一律の支援金率(0.23%)を掲載。率・拠出開始・事業主の半分負担は、同ページから辿る加入者向け/事業主向けリーフレット(令和8年4月1日更新)にも同じ記載がある。令和9年度以降について同ページにあるのは支援金額の見込み(月額)で、率は公表されていない。