保険と投資は、分けて考える
保険は必要です。ただ、「保障」と「運用」を1つの商品にまとめると、どちらのコストも見えにくくなります。まずは分けて考えるところから。
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まず、日本の加入状況
生命保険文化センターの調査によると、2人以上の世帯で生命保険(個人年金保険を含む)に加入している割合は 89.2% です。単身世帯では 45.6% でした。
ほとんどの世帯が入っている、ということです。ここで問いたいのは「入るべきか」ではありません。
入っている人の多くが、その保険が何をカバーしていて、公的保険との重複がどれだけあるかを説明できない状態にある、という点です。
保険の役割は、ひとつだけ
保険が向いているのは、「めったに起きないが、起きたら自力では到底払えない」ものだけです。
| 起きる確率 | 損失の大きさ | 向いている手段 |
|---|---|---|
| 低い | 大きい(数千万円) | 保険。これが本来の使いどころ |
| 低い | 小さい(数万円) | 貯蓄。保険にすると手数料のほうが高くつく |
| 高い | 小さい | 貯蓄・家計のやりくり |
| 高い | 大きい | そもそも避ける(そういう状況を作らない) |
つまり、一家の稼ぎ手が亡くなる、重い障害が残る、家が火事になる。こういうものに保険は向きます。逆に、入院数日分の費用のように、貯金で払える金額を保険でまかなうのは、割に合わないことが多くなります。
保険は、貯金で払えないものにだけ使う。
なぜ: 保険は、起きる確率が低く、起きたら自力では払えない損失に備える仕組みです。貯金で払える金額を保険でまかなうと、保障の対価と手数料のぶんだけ損になります。「不安だから」ではなく「払えないから」で選ぶ、という基準です。
その前に、公的保険が何を賄うか
ここが最大の抜けです。日本の公的保険は、多くの人が思っているより手厚くできています。民間保険を検討する前に、公的保険で足りない部分がどこかを確かめる必要があります。
| 困りごと | 公的な仕組み | 内容 |
|---|---|---|
| 医療費が高額になった | 高額療養費制度 | 1か月の自己負担に上限がある。所得によるが、70歳未満の中間の区分なら、医療費が100万円かかっても自己負担は9.3万円にとどまる |
| 病気やケガで働けない | 傷病手当金(健康保険) | 最長1年6か月、おおむね給与の3分の2。ただし国民健康保険にはない |
| 一家の稼ぎ手が亡くなった | 遺族年金 | 遺族基礎年金・遺族厚生年金。子どもがいる世帯では、これだけで相当な額になる |
| 重い障害が残った | 障害年金 | 障害基礎年金・障害厚生年金。等級に応じて終身で支給される |
| 失業した | 雇用保険 | 基本手当。ただし自営業・フリーランスにはない |
| 介護が必要になった | 介護保険 | 原則1割負担。要介護度に応じた上限あり |
とくに遺族年金は見落とされがちです
「自分が亡くなったら家族が困る」と考えて大きな死亡保障に入る前に、遺族年金がいくら出るかを確認してください。子どもがいる世帯では、必要な保障額が想像よりかなり小さくなることがあります。ねんきんネットや年金事務所で確認できます。公的保険で賄われる部分に民間保険をかけると、同じリスクに二重に払っていることになります。「保険に入っているから安心」ではなく「公的保険で足りない部分はいくらか」から考える順序です。
住宅ローンがある場合は、団信も「すでにある保障」
団体信用生命保険(団信)に加入して住宅ローンを組んでいる場合、契約者が亡くなるとローンの残債がなくなります。つまり住居費という家計で最も大きい固定費が、すでに保障されている状態です。必要保障額を数えるときにここを入れ忘れると、遺族に必要な額を実際より大きく見積もることになります。高額療養費の上限は、いくらか
公的な仕組みのうち、民間の医療保険と最も重なるのが高額療養費制度です。金額が分からないままだと重なりも測れないので、上限額を出しておきます。
上限は所得と年齢で決まります。「多数回該当」は、直近12か月のうち3か月以上この制度に当てはまった場合に、4か月目から下がる額です。「年単位の上限」は2026年8月から新しく設けられたもので、8月から翌年7月までを1年として数えます。
| 年収のめやす | 1か月の上限 | 多数回該当 | 1年の上限 |
|---|---|---|---|
| 約1,160万円 〜 | 270,300円 + 医療費のうち901,000円を超えた分の1% | 140,100円 | 1,680,000円 |
| 約770万円 〜 約1,160万円 | 179,100円 + 医療費のうち597,000円を超えた分の1% | 93,000円 | 1,110,000円 |
| 約370万円 〜 約770万円 | 85,800円 + 医療費のうち286,000円を超えた分の1% | 44,400円 | 530,000円 |
| 〜 約370万円 | 61,500円 | 44,400円 | 530,000円 |
| 住民税非課税 | 36,900円 | 24,600円 | 290,000円 |
| 年収のめやす | 1か月の上限 | 多数回該当 | 1年の上限 |
|---|---|---|---|
| 約1,160万円 〜 | 270,300円 + 医療費のうち901,000円を超えた分の1% | 140,100円 | 1,680,000円 |
| 約770万円 〜 約1,160万円 | 179,100円 + 医療費のうち597,000円を超えた分の1% | 93,000円 | 1,110,000円 |
| 約370万円 〜 約770万円 | 85,800円 + 医療費のうち286,000円を超えた分の1% | 44,400円 | 530,000円 |
| 〜 約370万円 | 61,500円 | 44,400円 | 530,000円 |
| 住民税非課税 | 25,700円 | 24,600円 | 290,000円 |
| 住民税非課税(所得が一定以下) | 15,700円 | — | 180,000円 |
表の読み方の例です。70歳未満で年収のめやすが約370万円 〜 約770万円の区分の人が、1か月に医療費100万円の治療を受けたとします。窓口で払うのは3割の30万円ですが、上限を超えた分は高額療養費として戻るので、最終的な自己負担は92,940円になります。マイナ保険証を使うか、事前に限度額適用認定証をもらっておけば、窓口での支払いが最初から上限までになるので、いったん立て替える必要もありません。
この表が指しているのは、保険が効く医療費だけです
差額ベッド代、先進医療の技術料、入院中の食事代、通院の交通費は、この上限の外にあります。民間の医療保険との重なりを測るときは、上限の内側(公的な仕組みが受け持つ範囲)と、この「外にあるもの」、それに働けない間の収入の落ち込みを、分けて数えるという整理のしかたがあります。どこまでを貯蓄で持ち、どこからを保険に移すかは、貯蓄額や世帯の状況で変わります。2027年8月からは所得区分がもっと細かく分かれます。区分が増えるので、いまの表の位置が変わる人が出ます。自分がどの区分かは、加入している健康保険の保険者(健康保険組合、協会けんぽ、市区町村の国民健康保険の窓口など)で確認できます。どこに加入しているかが分からないときは、マイナポータルか資格確認書で調べられます。
「投資型保険」は投資なのか
変額保険、外貨建て保険、終身保険、養老保険、個人年金保険、学資保険。これらは「貯まる保険」「増える保険」として説明されることがあります。
中身を分解すると、これらは「保障 + 運用 + 手数料」を1つの商品にまとめたものです。運用の部分だけを見れば投資に近いのですが、投資そのものではありません。
「保険で投資をしている」とは、どういうことか
- 問 「保険で投資をしている」と聞くことがある。それはどういうことなのか
- 答 変額保険などを指していることが多いようです。払った保険料の一部が、投資信託に似た形で運用される仕組みです。
- 問 それなら投資と同じではないのか
- 答 運用の部分についてはそう言えます。ただし、払ったお金の全部が運用に回るわけではありません。保障のための費用と、保険会社の手数料が引かれてから、残りが運用されます。
- 問 いくら引かれているのか
- 答 そこが見えにくい点で、商品によっては内訳がはっきり示されないことがあると言われます。そのため、実質的なコストを比べにくくなります。
- 問 とはいえ、自分で選ぶのは大変ではないか。保険にまとめたほうが楽だという人もいるのではないか
- 答 そのとおりで、上の説明は片側しか見ていません。自動的に積み立てが続く形になることに価値を感じる人はいます。一方で、途中で解約すると、解約控除などによって払った額より少ない金額しか戻らないことがあります。早く解約するほど差し引かれる仕組みで、契約書には書かれていても読んでいなかった、ということが起こりえます。
- 問 では、何を見分ければよいのか
- 答 中身の良し悪しの前に、「途中でやめない」と言い切れるお金かどうかが分かれ目になる、という見方があります。ここは自分の事情でしか答えが出ない部分です。
分けたほうが見えやすくなる理由
Q:分けたほうが見えやすくなる理由
- A:保障と運用を分ける(掛け捨て + NISA など)
- それぞれのコストが数字で見える。信託報酬も、保険料も、比べられる。
- 運用をやめたいときに保障が消えない。保障をやめたいときに運用が消えない。
- 必要な保障額が変わったとき(子どもが独立したなど)に、その部分だけ減らせる。
- NISA・iDeCo の非課税枠を使える。
- A:まとめる(貯蓄型・投資型の保険)
- 手続きが1つで済む。自分で商品を選ばなくてよい。
- 強制的に積み立てられる。自分では貯められない人には機能する。
- 生命保険料控除の対象になる(ただし控除額には上限がある)。
- 死亡保険金には相続税の非課税枠がある(500万円 × 法定相続人の数)。相続対策としての用途は別にある。
ここも「どちらが正しい」という話ではありません。ただ、まとめた商品は、内訳が見えにくいという性質があります。見えないものは比べられません。
学資保険も、この整理がそのまま当てはまります。中身は「契約者に万一のことがあったら以後の保険料が免除される(保障)」と「満期に受け取る(積立)」と「その手数料」を1つにまとめたものです。子どもが生まれたときに最初に勧められることが多い商品なので、勧められる順番の早さと、商品としての性質は別だと知っておくと落ち着いて見られます。
確かめ方も同じです。保険料の総額と満期に受け取る額を比べる、途中で解約したらいくら戻るかを見る、同じ保障を掛け捨てで買った場合と比べる。この3つで、上の表のどちら側が自分に合うかを判断する材料が揃います。
証券を開いて確かめること
いま入っている保険について、次のことが答えられるか確かめてみてください。答えられないなら、まず証券を読むところからです。
- それは何が起きたときに、いくら出る保険ですか。
- そのリスクは、公的保険でいくらまで賄われますか。差額はいくらですか。
- 毎月いくら払っていて、そのうち保障の対価はいくら、運用に回るのはいくらですか。
- 途中で解約したら、いくら戻ってきますか(解約返戻金)。何年目で払った額を上回りますか。
- 同じ保障を掛け捨てで買った場合、いくらになりますか。差額を自分で運用した場合と比べてどうですか。
「解約したほうがいい」という話ではありません
長く払ってきた保険を途中で解約すると、解約控除で損をすることがあります。今から入るかどうかの判断と、すでに入っているものをどうするかの判断は別です。すでに払い込みが進んでいる契約は、続けたほうが有利なことも多くあります。外貨建て保険について
「円より金利が高い」という説明で勧められることがあります。事実ではありますが、いくつか押さえておくべき点があります。
- 為替の変動がそのまま乗ります。受け取るときに円高だと、外貨ベースで増えていても円では減ることがあります。
- 円と外貨を交換するときの為替手数料がかかります。往復で発生します。
- 金利が高いのは、その通貨のインフレ率が高いことの裏返しでもあります。「高金利=有利」とは限りません。
- 為替リスクを取るなら、より透明でコストの低い方法(外貨建ての投資信託やETF)があります。
まとめ
- 保険は「めったに起きないが、起きたら払えない」ものに使う。貯金で払える額に保険をかけると割に合わない。
- 民間保険を考える前に、公的保険(高額療養費・傷病手当金・遺族年金・障害年金)で何が賄われるかを確認する。
- 「投資型保険」は保障・運用・手数料をまとめた商品。運用の部分は投資に近いが、内訳が見えにくい。
- 保障と運用を分けると、それぞれのコストが比べられる。ただし、まとめることに価値がある場面もある(強制力、相続対策)。
- すでに入っている契約を今すぐ解約すべきという話ではない。まず内容を確かめる。
出典
- [1]公益財団法人 生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査(新しいタブで開きます)」(利用条件: 出典の明記が条件。選択肢の統合や恣意的な抜粋は不可(新しいタブで開きます))2人以上の世帯の生命保険(個人年金保険を含む)加入率は89.2%、単身世帯は45.6%。
- [2]厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ(新しいタブで開きます)」(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます))自己負担限度額は所得と年齢で決まる。2026年8月から月額の上限額の見直しと年間上限の新設、2027年8月から所得区分の細分化。
- [3]厚生労働省「高額療養費制度に関する参考資料(新しいタブで開きます)」(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます))自己負担限度額の表(令和8年8月〜令和9年7月、令和9年8月〜)を含む。本サイトが転記しているのは令和8年8月〜令和9年7月の分のみ。
- [4]国税庁「相続税の課税対象になる死亡保険金(新しいタブで開きます)」(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます))死亡保険金の非課税限度額は「500万円 × 法定相続人の数」。