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タネとチエ

住む場所と、住まい方

住居費は多くの家計で最大の固定費です。ここの判断は、毎月の積立額を決めるより大きく効くことがあります。

公開

首都圏と地方、どちらが有利か

結論から言うと、一律には決まりません。ただ、決め手になる構造ははっきりしています。

首都圏は賃金が高い一方、物価も高い。ここまでは誰もが知っています。重要なのは、その物価差の中身です。

食料品や日用品の価格には、地域による差はそれほどありません。全国チェーンが同じ値段で売っているためです。地域差の大部分は住居費から来ています。

これが意味するのは、次のことです。

  • 首都圏で「住居費を抑えられる」人(実家、社宅、狭い部屋で構わない)は、賃金の高さがそのまま手元に残りやすくなります。
  • 逆に、首都圏で広い住居を求めると、賃金差を住居費が食い尽くすことがあります。
  • 地方では住居費が安いぶん、賃金が低くても手元に残る額は近くなることがあります。ただし自動車が実質的に必須の地域では、その維持費が住居費の差を埋め戻します。

自分で確かめる方法

一般論より、自分の数字で比べるほうが正確です。総務省の「小売物価統計調査(構造編)」には地域差指数があり、都道府県別・費目別に物価水準を比べられます。賃金は厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」で都道府県別に見られます。両方を突き合わせると、自分の職種での実質的な差が出せます。

見落とされやすい要素

要素首都圏地方
住居費高い。地域差の大部分がここ安い
自動車なしで生活できることが多い1人1台が前提の地域も。維持費は年数十万円規模
通勤時間長くなりやすい。時間も資源短いことが多い
転職の選択肢求人が多く、転職で収入を上げやすい選択肢が限られることがある
教育費塾・私立の選択肢が多く、支出が膨らみやすい選択肢が少ないぶん支出も抑えやすい
医療・介護選択肢が多い将来、通院の負担が増える可能性
不動産の流動性売りやすい売れないことがある。ここは後述

通勤時間は、金額に出ないぶん見落とされます。片道1時間の差は、年間で約500時間になります。この時間の価値をどう見るかは人によりますが、ゼロではありません。

転職の選択肢も、長い目では効きます。人的資本(これから稼ぐ力)を高めやすい環境かどうかは、住む場所を選ぶ判断材料のひとつです。

賃貸と持ち家

この論点は「損得」で語られがちですが、比較の仕方を間違えていることが多くあります。よくある間違いは、家賃と住宅ローンの返済額を直接比べることです。

住宅ローンの返済額には、資産になる部分(元金)と、消えて戻らない部分(利息)が混ざっています。比べるべきは、家賃と「消えて戻らない部分の合計」です。

持ち家の「消えるお金」には、物件価格の下落分も含めて考える必要があります。売却時に買値を下回れば、その差額も消えたお金です。
賃貸で消えるお金持ち家で消えるお金
毎月家賃、共益費、更新料(按分)ローンの利息、管理費、修繕積立金
なし固定資産税、都市計画税
一時引っ越し費用、礼金購入時の諸費用、リフォーム費用
資産になる部分なしローンの元金部分、物件そのもの

賃貸

  • 住み替えが容易。転職、家族構成の変化、災害、近隣トラブルに対応できる。
  • 大きな借入を負わない。収入が減ったときに住居費を下げられる。
  • 修繕費や固定資産税を負担しない。設備が壊れても大家の負担。
  • 資金が住宅に固定されないので、他に回せる。

持ち家

  • ローン完済後は住居費が大きく下がる。老後の生活費の見通しが立てやすい。
  • 団体信用生命保険により、契約者が亡くなればローンが消える(実質的に生命保険の役割を持つ)。
  • 住宅ローン控除がある。低金利下では実質的に有利になることがある。
  • 賃貸では借りられない広さ・仕様に住める。高齢になってからの入居審査の問題も避けられる。

「資産になる」は条件つき

持ち家を勧める説明でよく出るのが「家賃は消えるが、持ち家は資産になる」というものです。これは条件つきで正しく、無条件には正しくありません。

資産と言えるためには、必要なときに、そこそこの値段で売れる必要があります。売れない不動産は、資産というより固定費の発生源です。

  • 人口が減る地域では、買い手が減ります。人口推計を見ると、多くの地域で今後数十年にわたり人口が減る見通しです。
  • 建物は古くなります。木造住宅の価値は、税制上は20年程度で大きく下がる扱いです。土地の価値が残るかどうかが分かれ目になります。
  • マンションでは、管理費と修繕積立金が上がっていきます。建て替えの合意形成が難しいという問題もあります。
  • 売却には時間がかかります。すぐ現金化できるものではありません。

集中という観点

住宅の購入は、多くの家庭にとって人生で最大の集中投資です。1つの物件、1つの地域に、資産の大部分と数十年の借入を集中させることになります。分散という観点からは、これは相当に大きな賭けです。「安全な選択」として語られがちですが、構造としては逆の性質を持っています。

数字にならない部分

ここまで数字の話をしてきましたが、この論点は数字だけで決まりません。それを認めておくことも大事です。

  • 自分の家であることの安心感。壁に穴を開けられること、追い出されないこと。
  • 子どもに同じ場所で育ってほしいという希望。
  • 身軽でいたいという価値観。
  • 親の近くに住む必要。

これらは金額に換算できませんが、実際の判断ではしばしば決め手になります。「経済合理的でないから間違い」ということはありません。

会話

判断するための手順

  1. 「その家に何年住むか」を先に考える。短いほど賃貸が有利になりやすく、長いほど持ち家が有利になりやすくなります。購入時の諸費用を回収するのに数年かかるためです。
  2. 住宅ローンの総返済額と総利息を試算する。金利を1%上げた場合も試して、それでも耐えられるかを確認します。
  3. 毎月の返済額に、管理費・修繕積立金・固定資産税を足す。これが実際の住居費です。家賃と比べるのはこの金額です。
  4. 戸建てなら、修繕費を自分で積み立てる計画を立てる。給湯器、外壁、屋根はまとまって来ます。
  5. その地域の人口推計を見る。売るときに買い手がいるかは、ここからある程度は読めます。
  6. 数字が拮抗したら、数字以外の要素で決める。それでよいのです。

出典

  1. [1]総務省統計局家計調査(家計収支編)政府標準利用規約(第2.0版)
  2. [2]国立社会保障・人口問題研究所日本の将来推計人口(令和5年推計)出生中位・死亡中位仮定の推計値。2020年国勢調査を基準とする。
  3. [3]住宅金融支援機構フラット35利用者調査