40代・50代から始めるとき
「20代から始めていれば」と思うのは自然なことです。ただ、そこで止まるか、今から動くかで、20年後は変わります。まず事実を確認しましょう。
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最初に、認めておくこと
若いうちから始めた場合と同じ結果にはなりません。それは事実です。複利は時間について効くので、この差は埋まりません。
| 開始年齢と積立額 | 期間 | 積立の元本 | 想定される最終額 |
|---|---|---|---|
| 25歳から 月2万円 | 40年 | 960万円 | 約2,322万円 |
| 45歳から 月5万円 | 20年 | 1,200万円 | 約1,819万円 |
| 50歳から 月7万円 | 15年 | 1,260万円 | 約1,713万円 |
| 55歳から 月8万円 | 10年 | 960万円 | 約1,174万円 |
25歳から月2万円のケースは、元本が960万円しかないのに最終額が最も大きくなります。40年という時間が働いた結果です。ここは正直に認めるしかありません。
ただし、この表からもうひとつ読めることがあります。45歳から月5万円でも、1,800万円台に届いているということです。「手遅れだから意味がない」という結論は、この数字からは出てきません。
「時間がない」は、たいてい誤解
45歳の人が「あと20年しかない」と考えるとき、多くの場合は退職を終わりだと思っています。しかし、退職は運用の終わりではありません。
65歳で退職しても、資産をその日に全額使うわけではありません。95歳まで生きるなら、そこから30年かけて取り崩していきます。その30年間も運用は続きます。
つまり、45歳の人の運用期間は20年ではなく、50年です。時間の見積もりが半分以下になっていることが、焦りの原因のひとつになっています。
この年代にしかない有利な条件
20代にはなくて、40代・50代にはあるものがいくつかあります。
- 収入がピークに近い。20代の月2万円より、40代の月5万円のほうが出しやすいという人は多いはずです。上の表の元本の差はそこから来ています。
- 必要額を具体的に見積もれる。20代では「老後にいくら要るか」は霧の中ですが、40代なら生活水準も家族構成も見えています。逆算の精度が上がります。
- 公的年金の見込額がほぼ確定に近い。ねんきんネットで確認すれば、不足額を正確に出せます。
- 教育費の山が見えている。子どもの年齢が分かっているので、いつ何にいくら要るかを織り込めます。
- iDeCo の所得控除がもっとも効く年代。課税所得が高いほど軽減額が大きくなるためです。
20代のアドバイスは「とにかく始めろ」で足ります。40代・50代は、逆算して設計できます。これは劣っているのではなく、やり方が違うということです。
いちばん効く打ち手
意外に思われるかもしれませんが、この年代でもっとも効くのは「運用の工夫」ではありません。
就労を1年延ばすと、2つのことが同時に起きます。積み立てる期間が1年増え、取り崩す期間が1年減ります。両側から効くので、効果が大きくなります。
| 65歳で退職 | 66歳で退職 | 差 | |
|---|---|---|---|
| 退職時の資産 | 約1,819万円 | 約1,953万円 | +134万円 |
| 必要な資産 | 約5,375万円(30年分) | 約5,243万円(29年分) | −132万円 |
| 過不足の改善 | — | — | 約266万円 |
運用利回りを1%上げるのは容易ではありませんし、そもそも自分では決められません。就労期間は、ある程度は自分で決められます。
「70歳まで働け」という話ではありません
フルタイムで続ける必要はありません。週3日でも、収入が入れば取り崩し額が減ります。健康や事情で働けない場合もあります。ここで言いたいのは「就労期間は効果が大きい変数だ」ということであって、そうすべきだという主張ではありません。次に効くもの
- 公的年金の繰下げ。70歳まで繰り下げれば42%、75歳なら84%増えます。しかも終身です。長生きした場合の保険として機能します。
- iDeCo。課税所得が高い年代ほど所得控除の効果が大きくなります。ただし原則60歳まで引き出せないため、50代後半からは加入可能期間との兼ね合いを確認してください。
- 固定費の見直し。月2万円の固定費を減らすことは、月2万円の積立を増やすのと同じ効果があります。しかも確実です。
- 退職金の扱いを先に決める。受け取り方(一時金か年金か)で税額が変わります。会社の制度を確認しておきます。
順番に意味があります。上の3つは、運用利回りに依存しません。確実に効く打ち手から手をつけるのが、この年代では合理的です。
やってはいけないこと
ここがこのページで一番大事です
「出遅れたぶんを取り返そう」として、過大なリスクを取ることです。焦りは、判断をいちばん歪めます。狙われるのもこの心理です。- レバレッジ商品や高レバレッジの投資信託に手を出す。値動きが増幅されるため、下落したときに回復する時間が足りません。
- 「短期間で増やせる」という話に乗る。この年代は資産がある程度あるため、勧誘の対象になりやすくなります。
- 生活防衛資金まで投資に回す。取り崩さざるを得なくなったときに、下落局面で売ることになります。
- 退職金を一度にまとめて投資する。直後に大きく下落すると、取り返す時間も収入もありません。
- 「若い人と同じ配分」にする。20代のリスク許容度と50代のそれは、時間軸がちがう以上、同じにはなりません。
取り崩し開始が近いほど、リターンの順序の影響を強く受けます。始めた直後に大きく下げると、回復を待つ時間がありません。この年代では、期待リターンを追うより、下振れを抑えることの価値が相対的に上がります。
60代・70代の場合
「さすがにもう」と思われるかもしれませんが、65歳の時点でも、資産を使い切るまでに20年から30年あります。その間ずっと現金で置いておくと、物価が上がった分だけ購買力が落ちていきます。
ただし、この年代で新たに大きなリスクを取る必要はありません。論点は「増やす」ではなく「目減りを抑えながら、計画的に使う」ことに移ります。
また、判断能力が落ちてからも管理し続けられる仕組みかどうか、家族が全体像を把握できる状態か、といった論点が出てきます。これらは出口戦略のページで扱っています。
会話
まず何をするか
- ねんきんネットで年金の見込額を確認する。ここが決まらないと不足額が出せません。
- 退職金の有無と目安を確認する(就業規則・退職金規程)。
- 老後資金シミュレーターで、不足額と必要な資産を出す。
- 積立シミュレーターで、その不足額を残りの期間で用意するにはいくら必要かを逆算する。
- 出てきた金額が現実的でなければ、就労期間・年金の繰下げ・生活費の見直しを変数として動かす。
5番目が要点です。積立額だけで解こうとすると無理が出ます。動かせる変数は4つあります。
出典
- [1]厚生労働省「2024(令和6)年財政検証結果」公的年金の長期見通し。複数の経済前提ケースごとの所得代替率を示す。