積立の試算で、何を前提に置くか
積立の試算は、将来を当てるための道具ではありません。「この前提を置いたら、こうなる」という計算をしているだけで、前提を変えれば答えも変わります。だとすると、大事なのは出てきた金額そのものより、どの前提がどれくらい効いているかのほうです。ここでは、試算に入れる前提を1つずつ分けて見ていきます。
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試算は、前提を書き出したもの
試算の結果は、入れた数字から機械的に出てきます。将来の運用成果を予測したものでも、保証したものでもありません。同じ人が同じツールを使っても、置いた前提が違えば答えは違います。
そう考えると、試算の使いどころは「いくらになるか」を知ることより、「何をどれだけ変えると、結果がどれだけ動くか」を見ることにある、という整理が扱いやすくなります。前提を1つだけ動かして2回計算すると、その前提の効き方が分かります。
置いている前提は、5つに分けられます
積立の試算に入るものは、たいてい次の5つに分けられます。どれも「決まっている値」ではなく、こちらが選んで置いているものです。
| 前提 | 何を表しているか | 動かすと、どこが変わるか |
|---|---|---|
| 毎月の積立額 | 毎月いくらを入れるか | 元本の部分がほぼ比例して動きます。結果の見当をつけるときに、いちばん分かりやすい前提です |
| 積み立てる期間 | 何年続けるか | 元本だけでなく運用収益の部分が大きく動きます。後半の年ほど効き方が強くなります |
| 想定年率リターン | 1年あたり何%で増えると置くか | 運用収益の部分が動きます。期間が長いほど、わずかな差が結果を大きく変えます |
| インフレ率 | 物価が1年あたり何%上がると置くか | 金額そのものではなく、その金額で何が買えるか(実質値)が変わります |
| コストと税 | 信託報酬や、運用益にかかる税をどう扱うか | 結果を押し下げます。前提から抜け落ちやすいところです |
前提を1つずつ動かす
5つを同時に変えると、結果が動いた理由が分からなくなります。1つだけ変えて2回計算し、差を見る。この順で見ていくと、自分の結果が何に一番左右されているかが分かります。どの前提が自分の結果を大きく動かしているかは、1つずつ動かして確かめられます。「毎年同じ率で増える」という前提の性質
想定年率リターンは、たいてい「毎年この率で増える」という形で置かれます。ところが実際の値動きは、上がる年もあれば下がる年もあります。試算のグラフがなめらかな曲線になるのは、ばらつきを平らにならした前提を置いているからです。
積み立てている間は、平均が同じなら順番が違っても最終の金額は大きくは変わりません。ただし、取り崩しが始まったあとは話が変わります。同じ平均でも、下がる年が先に来るか後に来るかで残高の減り方が違ってきます。
つまり、平均の率だけを置いた試算は、積立の局面の見当をつけるのには向いていますが、取り崩しの局面をそのまま表しているわけではありません。取り崩しの側は、順序の影響を含めて別に見る必要があります。
金額のままか、いまのお金に直すか
将来の金額をそのまま見ると、大きく見えます。ただ、物価が上がっていれば、同じ金額で買えるものは減ります。将来の金額を「いまのお金でいくらに相当するか」に直したものを実質値と呼び、そのまま出したものを名目値と呼びます。
目標額を決めるときは、どちらで考えているかを先に決めておくと混乱しません。いまの生活費から必要額を出したのなら、それはいまのお金の感覚なので、比べる相手は実質値のほうです。
結果から引かれるものを、前提に入れておく
試算の多くは、運用にかかるコストや、運用益にかかる税を含めずに計算しています。含めずに出した結果は、その分だけ上振れて見えます。
- 信託報酬などのコストは、持っている間ずっとかかります。想定年率リターンからコストの分を引いた率を入れると、おおよその感覚がつかめます。
- 課税口座では運用益に税がかかります。NISA のような非課税の口座との差は、口座の比較のほうで扱っています。
- コストは事前に分かる数字で、リターンは分からない数字です。同じ「%」でも、確からしさが違います。
ここまでを踏まえると、試算の前提は「期待したい値」ではなく「そう置いたときに何が見えるか」で選ぶもの、という言い方ができます。
試算で分かること、分からないこと
整理すると、こうなります。分かる側だけを取り出して眺めると、試算は使いやすい道具になります。
試算で分かること
- 置いた前提のもとでの、元本と運用収益の内訳
- 前提を1つ変えたときに、結果がどちら向きにどれだけ動くか
- 目標額に届くまでにかかる年数の見当
- 積立額・期間・率のうち、自分の結果を一番動かしているのはどれか
試算では分からないこと
- 実際に何%で増えるか(前提として置いているだけです)
- 途中でいつ下落が来るか、どれくらい続くか
- 自分がその下落に耐えられるかどうか
- 前提を置いた期間の途中で、収入や支出がどう変わるか
- 1つの数字ではなく、低め・中くらい・高めの3通りで計算して、幅で見ます。
- 前提を1つだけ動かして、結果の動き方を確かめます。効き方の大きい前提が分かります。
- 収入や支出が変わったときに入れ直します。前提が変わった以上、答えも変わります。
幅で見ておくと、下振れした年に「話が違う」とならずに済みます。試算は、あとから見返して前提を書き換えるためのものだ、という使い方が現実的です。