本文へスキップ
タネとチエ

税は「年収」ではなく「課税所得」にかかる

「年収がいくらか」で税額が決まると思っていると、明細も源泉徴収票も読めません。所得税は、年収から段階的に引き算した残りに税率をかけて決まります。その残りが、課税所得と呼ばれるものです。サイトのあちこちに出てくる「課税所得によって変わります」の、その課税所得の話です。

解説

最終更新

なぜ、年収では決まらないのか

所得税には、税率をかける相手をその人の事情に合わせて調整する、という作りがあります。負担できる力の差を、税率の側を動かして表すのではなく、税率をかける前の金額を減らす形で表しています。なぜその作りなのかは用語集の「課税所得」に書いたので、ここでは、その調整が実際にどの順番で入るのかを見ます。

だから、税額が決まるまでには引き算の段があります。年収に率をかけて出る額ではありません。手取りの記事では給与明細の控除の欄に何が並ぶかを見ましたが、ここではその中の「税」の側、税額そのものがどう決まるかを扱います。

この記事で扱わないこと

課税所得を小さくする方法は扱いません。「この控除を使うと軽くなる」という形は、書いた時点で節税の指示になります。扱うのは、何をどの順で引くと課税所得になるか、その金額がどこに効いてくるか、自分の課税所得はどこを見れば分かるか、までです。控除の額も税率の区分も本文には書きません。年分で変わるので、確認する先だけを示します。

税額が決まるまでに、4つの段がある

給与だけを受け取っている場合、税額が決まるまでの段はこうなっています。名前が似ているので、どの段の話をしているのかを取り違えやすいところです。

源泉徴収票に「課税所得」という欄はありません。2つの欄の引き算として出てきます。年収の欄も「年収」ではなく「支払金額」と書かれています。
何を表す金額か源泉徴収票のどの欄か
収入金額(いわゆる年収)勤務先からその年に支払われた額の合計。手取りではなく、引かれる前の額「支払金額」
所得収入から、その収入を得るためにかかったとみなされる分を引いた残り。給与の場合は給与所得控除を引く「給与所得控除後の金額」
課税所得所得から、各種の所得控除を引いた残り。税率をかける相手はこの金額「給与所得控除後の金額」から「所得控除の額の合計額」を引いた額
税額課税所得に税率をかけ、税額控除があれば引いた残り「源泉徴収税額」

給与以外の収入がある場合は、2段目が1つとはかぎりません。所得税法は所得をその性質によっていくつかの区分に分けていて、区分ごとに「収入から何を引いて所得を出すか」が別々に決まっています。多くはいったん合算してから所得控除を引きますが、株式の譲渡益のように、合算せずに別の計算をするものもあります。

呼び名の話にも見えますが、ここが混ざると読めなくなります。「収入」は入ってきた額、「所得」は収入から必要な分を引いた残り、「課税所得」はさらに所得控除を引いた残りです。制度の要件に「所得が一定の額以下」と書いてあるとき、それは年収のことではありません。

引くものは、3か所にあって性質が違う

「控除」と呼ばれるものは1種類ではありません。どの段で引かれるかによって、効き方が変わります。

所得控除は種類が多く、要件も年分で変わります。名前の一覧と要件は国税庁の「所得控除のあらまし」に出ています。
名前何から引くか何を表しているか
給与所得控除収入金額から引いて、給与所得を出す給与を得るためにかかる分を、実費ではなく収入に応じた一律の計算で見込んだもの
所得控除所得から引いて、課税所得を出す扶養・医療費・社会保険料・保険料の支払いなど、その人の事情や最低限の生活費を税負担の側で調整するもの
税額控除計算した税額から直接引く税額そのものを減らすもの。所得控除とは別の段にある

見落としやすいのは、所得控除は控除された額がそのまま税額から減るわけではない、という点です。所得控除で減るのは課税所得のほうなので、税額が減る幅は、控除額に税率をかけたぶんになります。同じ額の控除でも、課税所得の水準が違えば軽くなる幅は違います。

iDeCo の掛金や生命保険料の控除について「課税所得によって効果が変わります」と書かれているのは、有利・不利の話ではなく、この構造から出てくる帰結です。段階的な税率の上に控除が乗っているので、そうなります。課税所得が生じていない年には、この部分の軽減も生じません。

税率は、超えた部分にだけかかる

課税所得が決まると、そこに税率がかかります。所得税の税率は課税所得の大きさに応じて段階的に上がる形になっていて、上の段の率は、その段を超えた部分にだけかかります。下の段の分まで高い率で計算し直されるわけではありません。

ここは誤解の多いところです。境界を少し超えたせいで税引き後の金額が逆転する、ということは、所得税の税率の側では起きません。超えた部分にかかる率が上がるだけなので、増えた分がまるごと税になることもありません。

「税率の段」と「要件の線」は別のもの

線を超えると扱いが変わるものは、税率の外側にあります。社会保険に加入することになる要件、扶養の判定、給付や自己負担の区分は、それぞれ別の指標と別の線で決まっていて、超えると扱いが切り替わるものがあります。「年収が増えたのに手取りが減る」と言われる場面があるとすれば、税率の段ではなくそちら側の話です。2つを分けて見ると、どちらの話をしているのかが決まります。

ややこしいのは、要件の側が見ている金額が「課税所得」とはかぎらないことです。制度によって「合計所得金額」「総所得金額等」など、別の段の金額を見ています。要件を読むときは、書いてある語がどの段を指しているかを、金額より先に確かめることになります。

所得税の課税所得と、住民税の課税所得は同じではない

住民税にも同じ形の計算があります。所得から所得控除を引いた残りに率をかける、という順番は変わりません。ただ、控除の額が所得税と同じとはかぎらないので、同じ年について、所得税の課税所得と住民税の課税所得は別々の金額になります。

もう1つ違うのは時期です。住民税の所得割は前年の所得を元に算定され、会社員の場合は勤務先を通じて翌年に納めます。手元に「課税所得」と書かれた書類があるとき、それがその年の所得税の話なのか、前年の所得を元にした住民税の話なのかで、指している年が違います。

源泉徴収票の「源泉徴収税額」の欄が何を含んだ額なのかは、手取りの記事のほうで扱っています。税額が決まるまでの段は、この記事の範囲では上の4つです。

課税所得は、税額以外の場面にも出てくる

課税所得は税額を出すための途中の金額ですが、そこで終わりません。制度の側が「負担できる力」を測る物差しとして、この金額やその近くの段の金額を使っている場面があります。

  • 医療費の自己負担の上限は、所得の区分ごとに決まっている。区分の判定に何を見るかは、加入している医療保険や年齢によって違う。
  • 扶養控除や配偶者に関する控除の判定は、扶養される側の所得の額で決まる。年収そのものではなく、そこから引いたあとの金額で線が引かれている。
  • iDeCo の掛金の所得控除がどれだけ効くかは、課税所得の水準で変わる。課税所得が生じていない年は、この軽減は生じない。

つまり「自分の課税所得がどのくらいか」は、税額を確かめるためだけの数字ではありません。制度の要件を読むときに、自分がどの側にいるのかを見る手がかりになります。ただし、どの制度がどの段の金額を見ているかは制度ごとに違うので、そこは制度の側の言葉で確かめることになります。

「壁を超えると損」は、どの段の話か

ここからできること

自分の課税所得は、手元の書類から出せます。金額そのものを覚えておく必要はありませんが、一度出しておくと、制度の説明に出てくる「課税所得によって変わります」が、自分の話として読めるようになります。

  1. 源泉徴収票の「支払金額」「給与所得控除後の金額」「所得控除の額の合計額」の3つの欄を見る。上から順に、収入・所得・引くもの、にあたる。
  2. 「給与所得控除後の金額」から「所得控除の額の合計額」を引く。それが所得税の課税所得にあたる。
  3. 確定申告をしている場合は、申告書に「課税される所得金額」の欄がある。引き算をしなくても、そこに出ている。
  4. 住民税は、勤務先経由で届く税額決定通知書か、市区町村から届く納税通知書を見る。所得税とは別の金額になっている。
  5. 制度の要件を読むときは、書いてある語が「収入」「所得」「課税所得」のどれかを先に確かめる。金額を当てはめるのはそのあと。

控除の額や税率の区分は年分で変わります。本サイトで扱っている制度の値は、基準日と出典を添えて載せているものだけです。それ以外は、国税庁と、住んでいる市区町村の案内が元になります。

このページの内容へもどる

出典

  1. [1]国税庁タックスアンサー No.1300 所得の区分のあらまし(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)所得税法では所得をその性質によって10種類(利子・配当・不動産・事業・給与・退職・山林・譲渡・一時・雑)に区分する、という区分の一覧。区分ごとの計算方法は各コードに分かれている。
  2. [2]国税庁タックスアンサー No.1410 給与所得控除(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)給与所得は収入金額から給与所得控除額を引いて求める、という仕組みの説明と、収入金額の区分ごとの控除額の表。控除額の表は年分で変わる。改正の内容は nta-2026-kiso。数値は年分ごとに確認する。
  3. [3]国税庁タックスアンサー No.1100 所得控除のあらまし(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)各種所得の金額の合計額から各種所得控除の額の合計額を差し引き、その残りを基礎として所得税額を計算する、という順番の説明と、所得控除の種類の一覧。種類も要件も年分で変わるので、控除の名前を写すときは年分を確認する。
  4. [4]国税庁タックスアンサー No.2260 所得税の税率(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)分離課税に対するものなどを除く所得税の税率は、課税される所得金額に応じた7段階に区分されている。速算表は「課税される所得金額 × 税率 − 控除額」の形で、区分ごとの率が下の段の金額に及ばないこと(超過累進)を控除額の側で調整している。率と区分は同ページに載っているが、本サイトの本文には書き写さない。
  5. [5]国税庁タックスアンサー No.2662 年末調整のしかた(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)給与の支払者は支払いのつど所得税を源泉徴収するが、その1年分の合計は納めるべき税額と一致しないため、年末に差額を精算する(年末調整)。多ければ還付、少なければ徴収。
  6. [6]総務省地方税制度 個人住民税(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)個人住民税は所得割と均等割からなり、所得割は前年の1月1日から12月31日までの所得で算定される。会社員は原則として特別徴収(市町村からの税額通知を元に、会社が給与から天引きして納める)。率・均等割の額は同ページに載っているが、本サイトの本文には書き写さない。