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タネとチエ

キャッシュフローは、1つの物差しでは分けられない

「キャッシュフローを増やす」と言うとき、給与のことなのか、家賃収入のことなのか、資産を売って作った現金のことなのか、話している中身は人によってかなり違います。ここでは中身を先に決めず、いくつもの切り口に分けて見取り図を作ります。

解説

最終更新

おさらいと、ここでの範囲

お金の話には、ある時点でいくら持っているかというストック(残高)と、一定期間にいくら出入りするかというフローという、性質の異なる2つの見方があります。この違いそのものは、別の解説記事で扱いました。ここではその違いのおさらいは最小限にして、フローの側、つまりキャッシュフローの中身を主役にします。

ここで整理したいこと

家計簿のように集計するための分類ではありません。同じキャッシュフローでも、どの軸で見るかによって性質が変わって見える、ということを確認するための整理です。軸は1本の木のように上下関係で並んでいるわけではなく、複数の切り口が並んで存在しています。

向きで分ける:インフローとアウトフロー

もっとも単純な軸は、お金が自分に向かって入ってくるか、自分から出ていくか、という向きです。

向き具体例
インフロー(入ってくる)給与・賞与・利息・配当・分配金・家賃収入・年金・各種給付金・贈与・資産の売却代金など
アウトフロー(出ていく)生活費・税金・社会保険料・ローンの返済・保険料・贈与を渡す側の支出など

家計を考えるときは、この2つを差し引きしたネットの金額(収支)に意味があります。ただし、同じ黒字でも、インフローの中身が何かによって、あとで見るように性質はかなり違ってきます。

出所で分ける:どこから来るお金か

次の軸は、その現金がどこから生まれているか、という出所です。大きく4つに整理されます。

出所具体例
労働から生まれるもの給与・賞与・事業所得・副業による報酬など
資産から生まれるもの預貯金の利息・株式の配当・投資信託の分配金・不動産の家賃収入・著作権や特許権の使用料(印税・ロイヤリティ)など
公的な制度からの移転公的年金・雇用保険や健康保険などの各種給付金・児童手当などの手当・税金の還付金など
私的な移転贈与・相続・生命保険金・個人からの見舞金など

退職金・企業年金は、どちらにも顔を出す

退職金や企業年金は、勤務先に対して働いた対価が長い時間をかけて支払われるものなので、労働から生まれる欄に近い性質を持ちます。一方で、実際に振り込まれるのは退職や年金の受給開始という、労働そのものからは離れた出来事です。出所の分け方は、いつも1つに定まるとはかぎりません。

性質で分ける:定期か、不定期か

3つ目の軸は、その入出金がどれくらいの周期で起きるか、という性質です。

性質具体例
定期的(周期性がある)毎月の給与・公的年金・家賃収入など
不定期(そのつど)賞与・贈与・保険金・資産の売却による現金化など

定期的なキャッシュフローは、毎月の生活費の設計に組み込みやすいという性質があります。不定期なものは、金額や時期を事前に見通しにくいという性質があります。これと似ていますが別の軸として、恒常的に続くか、一度きりで終わるかという見方もあります。たとえば毎月のように受けている副業の報酬は定期的かつ恒常的、退職金は不定期かつ一度きり、というように、2つの軸は必ずしも一致しません。

同じお金が、複数の軸にまたがる

ここまで見てきた向き・出所・性質は、それぞれ別の切り口で、1本の木のように上下関係にあるわけではありません。同じキャッシュフローが、複数の軸のどこかに同時に当てはまります。

  • 家賃収入は、向きではインフロー、出所では資産から生まれるもの、性質では定期的なもの、に同時に当てはまります。
  • 副業の報酬は、向きではインフロー、出所では労働から生まれるもの、性質では不定期なこともあれば定期的なこともあります。
  • 相続で受け取った不動産を売った代金は、向きではインフロー、出所では私的な移転、性質では不定期かつ一度きり、に当てはまります。

「これは結局どの種類か」を1つに決めようとすると止まってしまいますが、複数の軸のどこにあるかを確認する、という順番であれば整理できます。

課税上の性質(所得区分)で分ける

もう1つ、暮らしに直結する軸があります。税の制度が、所得の性質によって分けている区分です。所得税法は、所得をその性質によっていくつかの区分に分けています。

この区分は所得税法によるもので、区分ごとに収入から所得をどう計算するかが別々に決まっています。合算して税率をかけるものと、譲渡所得の一部のように分けて計算するものがあります。控除の額や税率の区分は、この記事では扱いません。
所得の区分主な内容の例
利子所得預貯金や公社債の利子など
配当所得株式の配当金、投資信託の分配金など
不動産所得家賃収入など、不動産の貸付けによる所得
事業所得事業や副業から生じる所得
給与所得勤務先から受け取る給与・賞与
退職所得退職金や、iDeCoの老齢一時金など、退職に伴って受け取るもの
山林所得山林を伐採または譲渡したことによる所得
譲渡所得株式や不動産などの資産を譲渡したことによる所得
一時所得生命保険の一時金など、労働の対価でも資産の売却でもない一時的な所得
雑所得公的年金や、ほかのどの区分にも当てはまらない所得

ここでの区分は、どこから来るかという出所の軸と重なる部分はありますが、同じではありません。給与所得は出所でいえば労働ですが、退職所得は出所としては労働の対価でありながら、税の区分では給与所得とは別に扱われます。制度側の理由で、軸がもう1本増える、という例です。

ここから先は、別の記事で

控除の額・税率の区分・確定申告が必要になる要件は、年によって変わる部分が多く、ここでは扱いません。課税所得がどう決まるかを扱った別の解説記事にまとめてあります。

売却益(キャピタルゲイン)はキャッシュフローに含めてよいか

ここまでの分類のどこにも、まだ出てきていないものがあります。保有している資産を売って得る利益、いわゆるキャピタルゲイン(譲渡益)です。これをキャッシュフローの一種として数えてよいかどうかは、実は見方が分かれます。

別の解説記事で、投資信託の分配金について「分配は増えた分ではなく、一部を現金化したものだ」という論点を扱いました。分配が出ると、そのぶん基準価額が下がるためです。資産を売って得るキャピタルゲインにも、似た構造があります。保有していた資産の評価額の一部を現金に換えている、という点では、分配と同じことをしているとも言えます。税の扱いとしては譲渡所得という独立の区分がある一方で、20.315%という課税もかかります。

含めてよい、という整理

  • 生活費をまかなう力という意味では、口座にいくら現金が入ってくるかが重要で、それが利息由来か売却由来かは問わない、という考え方があります。
  • 定率で売るなどの取り崩し方は、必要なときに必要な額だけ売る仕組みで、結果として得られる現金は、狙って作った分配金と同じ働きをします。
  • 税の計算でも、譲渡益は所得の一区分(譲渡所得)として独立に認識されています。

含めるべきではない、という整理

  • 利息・配当・家賃収入は、元本や保有資産を維持したまま生まれます。資産を売ると保有量そのものが減るので、性質が違うという見方があります。
  • 分配金を「増えた分ではない」と注意したのと同じ理屈が、売却にもあてはまります。売った額を丸ごと「増えた」と数えると、資産が減っている事実を見落とします。
  • 評価額が上がっているだけの含み益は、売るまでは現金化されていません。キャッシュフローという言葉を現金の動きに厳密に限定する立場では、含み益の変動自体はキャッシュフローに当たりません。

どちらが正しいかを決める話ではなく、何を測りたいかで答えが変わります。「資産を減らさずに、いくら使い続けられるか」を知りたいのであれば、元本を維持したまま生まれる利息・配当・家賃収入などと、資産を取り崩す売却は区別して見る必要があります。一方、「今月、口座にいくら現金が入ってきたか」を知りたいだけであれば、由来を問わずに合算しても矛盾はありません。目的によって、線の引き方を変えることになります。

軸が多すぎないか

結局どれで考えればいいのか

向き・出所・性質・所得区分と、軸が多すぎて逆に分からなくなる。結局どれで考えればいいのか
そのとおりで、軸を全部並べただけでは道具として使えません。どれか1つが「正しい」分類というわけではなく、知りたいことに応じて軸を選ぶ、という使い方になります。家計の収支を見たいなら向き、生活の安定度を見たいなら性質、税の計算をしたいなら所得区分、というように目的が軸を決めます。
出所の分類で、退職金や企業年金は労働側にも私的な移転側にも当てはまると書かれていた。ということは、この記事の分類自体、きれいに分かれていないのではないか
そこは正直に書いたとおりで、分類はきれいに分かれていません。同じ理由で、税の区分でも事業所得と雑所得の境目のように、線引きが難しい場面があります。分類は現実を無理やり切り分ける道具ではなく考えるための補助線なので、境目に当たるものが出てくること自体は、分類の欠陥ではなく性質として織り込んでおくもの、と言われます。
キャピタルゲインを含めるかどうかの議論は、結局どちらの整理を採用すればいいのか
この記事では決めていません。両方の整理に根拠があり、知りたいことによって使い分けるものだからです。ただ、少なくとも「売った額をそのまま増えた分として扱う」という考え方には注意が必要で、それは分配金についての注意点と同じ理由によります。
所得区分の名前は分かったが、結局どの区分にいくら税金がかかるのかを知りたい
この記事では扱っていません。区分ごとの計算のしかたや控除の額は年によって変わる部分が多く、別の解説記事にまとめてあります。ここでの狙いは、名前と、名前が指しているものの見取り図までです。

まとめ

  1. キャッシュフローは、向き(インフロー/アウトフロー)・出所(労働/資産/公的な移転/私的な移転)・性質(定期/不定期、恒常的/一時的)・税の所得区分という、複数の軸で見られます。
  2. 同じお金が、複数の軸に同時に当てはまります。1つの箱に収めようとする必要はありません。
  3. 知りたいことによって、使う軸を選びます。家計の収支を見るなら向き、生活の安定度を見るなら性質、税の申告を考えるなら所得区分です。
  4. 売却益(キャピタルゲイン)をキャッシュフローに含めるかどうかは見方が分かれます。分配金と同じく、資産を減らさずに得ているのか、資産の一部を現金化しているのかを区別する視点が手がかりになります。

自分の毎月の収支を実際に書き出してみると、ここで挙げた軸のどれに当てはまるかを確認しながら整理できます。家計の見取り図を作るための、最初の一歩になります。

出典

  1. [1]国税庁タックスアンサー No.1300 所得の区分のあらまし(新しいタブで開きます)(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます)所得税法では所得をその性質によって10種類(利子・配当・不動産・事業・給与・退職・山林・譲渡・一時・雑)に区分する、という区分の一覧。区分ごとの計算方法は各コードに分かれている。