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タネとチエ

なぜ投資という話になるのか

「投資したほうがいい」と言われても、なぜなのかが分からないことがあります。理由が分からないまま始めると、下落したときに続きません。まず、話の出発点を確認します。

解説

最終更新 / 公開

3つの前提が変わった

かつては、働いて貯金し、退職金と年金で老後を過ごす、という設計が成り立っていました。この設計を支えていた前提のうち、3つが変わりました。

  1. 預金の金利がほぼゼロになった。かつては預金だけで資産が2倍になる時代がありましたが、現在の金利水準では期待できません。
  2. 物価が上がり始めた。2020年から2025年の5年間で、消費者物価は約12%上がりました。金額が変わらない預金は、購買力では目減りしています。
  3. 公的年金の給付水準が下がる見通しになった。2024年の財政検証では、現役世代の手取りに対する年金の比率(所得代替率)が、61.2%から50%台へ下がる見通しが示されています。

この3つが重なると、「貯金だけで足りるか」を確かめる必要が出てきます。「投資すべきだ」という結論が先にあるのではなく、確かめた結果として足りなければ、選択肢のひとつとして出てくる、という順番です。

「減っていない」と「損していない」はちがう

減っていないことと、損していないことは、ちがう。

なぜ: 物価が上がると、同じ金額で買えるものは減ります。2020年に10,000円で買えたものは2025年には約11,198円かかります。金額が変わらない預金は、購買力では目減りしています。

預金は元本が減りません。だから「安全」と言われます。しかしこれは、金額が減らないという意味であって、買える量が減らないという意味ではありません。

2020年に10,000円で買えたものは、2025年には約11,198円かかります。裏返すと、2020年から現金のまま置いていた10,000円は、購買力でいえば約8,930円になっています。金額は1円も減っていないのに、です。

ただし、逆も言えます

物価が下がる局面では、現金の購買力は上がります。日本は長くその状態にありました。「必ずインフレになる」と決めつけるのも、また別の思い込みです。ここで言えるのは「物価は動く」ということまでです。

ピケティの指摘

経済学者のトマ・ピケティは『21世紀の資本』で、歴史的に見ると資本収益率(r)が経済成長率(g)を上回ってきた、と指摘しました。r > g という不等式です。

これは「資産を持っている人の資産の増え方が、働いて得る所得の増え方より速い」ということを意味します。労働所得だけに頼っていると、資産を持つ人との差が開いていく、という構造の指摘です。

誤解しやすいところ

r > g は「投資すれば儲かる」という主張ではありません。歴史的なデータについての記述であり、しかも解釈には議論があります。個人が投資して r と同じリターンを得られる保証もありません。詳しくは専用のページで、批判も含めて扱っています。

それでも、投資が万能ではない

投資は増える可能性と減る可能性をセットで引き受ける行為です。次の状況にある人にとっては、投資より優先すべきことがあります。

  • 高金利の借入がある。年15%の借金を返すのは、年15%の運用と同じ効果があり、しかも確実です。
  • 生活防衛資金がない。急な出費で投資を取り崩すことになると、たいてい相場が悪いときに売ることになります。
  • 3年以内に使う予定のお金しかない。使う時期が近いお金は、値動きのある商品に向きません。
  • 収入そのものを増やす余地が大きい。運用で年5%を得るより、収入が10%増えるほうが効くことがあります。

年15%の借金の返済は、年15%の運用と同じ。

なぜ: 高金利の借入を返すことは、確実にその金利分の損失を避けることです。同じ利回りを運用で安定して得るのは現実的ではありません。返済のほうが確実な「利回り」です。

始めた理由は、あとで効いてきます

始めた理由を借りると、どうなるのか

問 「まわりがやっているから」で始めるのは、だめなのか
答 だめとまでは言えません。ただ、始めた理由が借り物だと、下がったときに支えにならないことがある、とは言われます。
問 理由が借り物だと、具体的に何が起きるのか
答 最初の下落で、やめる理由のほうを探し始める、ということが起こりえます。自分が何に投資しているのかを聞かれても説明できない状態だと、値動きの説明も自分の中で作れません。
問 では、何が支えになるのか
答 「年金だけだと自分の家計はどうなるか」を一度計算しておく、という方法が紹介されます。当たっているかどうかとは別に、下がったときに戻ってくる場所になる、という説明です。
問 計算しても外れる。外れる計算に意味はあるのか
答 そのとおりで、上の説明は言葉が足りていません。将来の数字は外れます。当てるための計算ではなく、前提を変えたら結果がどう動くかを自分の手で一度触っておく、という意味のほうが大きいと言われます。答えを出すのではなく、動かし方を知るための作業だ、という整理が扱いやすいようです。

出典

  1. [1]総務省統計局「2025年基準 消費者物価指数(CPI)(新しいタブで開きます)」(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます))2026年7月分(2026年8月21日公表)から2025年基準。2024年12月以前は、旧基準の系列を2025年=100に換算した接続指数として公表されている。基準改定は5年ごとに来るので、取得日が新しいことは基準が新しいことを意味しない。
  2. [2]厚生労働省「2024(令和6)年財政検証結果(新しいタブで開きます)」(利用条件: 公共データ利用規約(第1.0版)(新しいタブで開きます))公的年金の長期見通し。複数の経済前提ケースごとの所得代替率を示す。